山階鳥類研究所 アホウドリのページアホウドリ 復活への展望

今後の活動 小笠原諸島への再導入へ

伊豆鳥島で絶滅危惧種アホウドリの保護活動を行ってきた山階鳥類研究所では、2005~6年の繁殖期における鳥島初寝崎でのデコイ作戦の成功を受けて、引き続き鳥島個体群のモニタリングを続けながら、同種をいっそう安全な状態まで回復させるために、小笠原諸島への再導入プロジェクトを行うことになりました。そして、2005年から、移住の候補地の選定その他のさまざまの準備をおこなってきました。ここでは、プロジェクトの背景と現状について解説します(文中敬称略。山階鳥研NEWS 2005年5月号「アホウドリを小笠原諸島へ」に最低限の訂正をしたものです)。

小笠原諸島への再導入へ 目次

アホウドリの歴史

現在伊豆鳥島と尖閣諸島のみで繁殖しているアホウドリですが、歴史的には非常に大きな個体数が北西太平洋の島々に広く繁殖分布していました。それが、明治時代以降、羽毛採取を目的とした濫獲によって次第に分布を狭め、最後の繁殖地とされた伊豆鳥島でも1949年には絶滅したとされました。その後、1951年になって鳥島で再発見され、1971年には尖閣諸島南小島でも少数の生息が確認されたのです。伊豆鳥島では東邦大学の長谷川博の発案のもと、1992年から環境省の委託で山階鳥研がデコイによる新繁殖地の形成を行ってきました。2005年1月には鳥島初寝崎の新繁殖地で4羽の雛が孵化し、従来の燕崎繁殖地とは別に新たな繁殖地が島内にできることが確実になりました。

クロアシアホウドリ

アホウドリが繁殖していた島
明治時代の濫獲以前には現在の2カ所(緑色の星印)以外にも北西太平洋の各地(赤丸)に繁殖地があった
(長谷川1995等を参考に作成)


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ふたつの繁殖地が抱える問題点

伊豆鳥島と尖閣諸島という現在の二つの繁殖地のうち、鳥島のほうがずっと大きく、長谷川の推定によれば2004年5月現在、約1655個体が生息しています。両繁殖地にはそれぞれ、保全上の問題点があります。伊豆鳥島は火山島であるため、噴火の危険と隣り合わせであることが最大の問題点です。繁殖期に大噴火が起こった場合には繁殖集団の半数近くが失われる危険性があると指摘されています。一方、尖閣諸島は現状調査が難しく、保護活動もできないのが実情です。こうした現在の繁殖地の背景から、関係者の間では本種のいっそう確実な回復のために三番目の繁殖地をつくることの重要性が従来から言われていました。


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第三の繁殖地を小笠原に

自国の絶滅危惧種としてアホウドリの回復に関心を抱いているアメリカ合衆国政府の鳥獣保護担当者や研究者らも含め、関係者の間で協議を続けてきた結果、小笠原諸島の聟島列島で第三の繁殖地を形成させるプロジェクトを行うことが決まりました。聟島列島は、最大の繁殖地である伊豆鳥島から南南東に約350キロの場所にあります。ここに繁殖地を作らせる理由は次のようなものです。まず、聟島列島は、明治時代の濫獲以前のアホウドリの繁殖地のひとつであり、現在少数のアホウドリの飛来が確認されていること。火山噴火のおそれがないこと。鳥島から人為的に雛を移動して巣立たせることも視野に入れたときには、距離の面から実施が比較的容易で対応しやすいこと。活動拠点や物資の調達基地として小笠原諸島の中心地である父島が使えることなどです。


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誘致の方法~雛の移動・人工飼育も

鳥島初寝崎で有効性が実証された、アホウドリの実物大の模型であるデコイとアホウドリの音声による誘引を、聟島列島でも行います。しかし、この方法では、同じ鳥島の中の別な場所に繁殖地を作るだけでも15年近くを要しました。そこで新たな手法として聟島列島での繁殖地形成で検討されているのが、鳥島で孵化した雛を移動して聟島列島で巣立ちさせる方法です。アホウドリ類は、育った場所を記憶しており、数年後に成熟して繁殖地を探すときには、巣立った場所に戻ってくると考えられます。雛を一定期間新しい場所で人工的に飼育して巣立たせることで、より短期間で将来その場所で繁殖するアホウドリを増やそうというわけです。

雛の人工飼育を無人島でおこなうためには冷凍庫、最小限度の居住施設などが必要になりますので十分な検討と準備が必要です。また雛の移動については、いきなりアホウドリで行うのではなく、絶滅の危険の少ない近縁種のクロアシアホウドリでまずテストをすることが検討されています。

プロジェクトを実際に行う場所ですが、聟島列島は現在人間が居住しておらず、海鳥の繁殖地となっている場所も多く、いくつかの候補地が考えられます。過去および現在のアホウドリ類の生息状況や、物資輸送のための船舶の接岸の容易さや居住施設を設置する容易さなどいくつかの基準に照らして候補地を選ぶ必要があります。現在有力な候補地として検討されているのは、嫁島、媒島、聟島の3カ所です。


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欠かせない地元の理解と協力

小笠原諸島は国立公園であり、キャンプの禁止や場所により人工建造物の設置の禁止をはじめとする各種の保護上の規制があります。固有の生物を外来種から守るために、島から島への資材の運搬にも厳しいチェックが要求されています。また聟島列島の植生は野ヤギなどの影響を著しく受けており、現在東京都が中心となって植生を回復させる事業が進められています。観光や漁業といった産業への配慮も必要です。このため、法律や規則上の問題点をクリアしながら、地元の行政、水産、観光、自然保護等の関係者と十分な意志疎通をはかってプロジェクトを推進したいと考えています。

聟島列島には近縁種のクロアシアホウドリの繁殖地もある(2005年3月嫁島にて)


候補地のひとつ聟島北西部の平坦地


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その後の進展

「山階鳥研NEWS」2005年5月号に上記の記事を掲載後、2008年1月までの進展を簡単にご紹介します。

2005年3月には、山階鳥研のスタッフが、長谷川博(東邦大学教授)とともに小笠原諸島を現地調査して、誘致の候補地を聟島(むこじま)北西部に絞り込みました。その後、いろいろな生物分類群の専門家による環境影響評価が行われ、プロジェクトの実施に大きな問題点はないという結論が出ています。また、自然環境の保全意識の高い地元の皆様の理解を得るために、父島と母島で数回の説明会を環境省と共同で開催しました。

これらの準備をへて、2006年10月に、聟島北西部の現地に、アホウドリのデコイ30体を設置しました。

移送したヒナの人工飼育については、記事で述べたように、問題点洗い出しのために近縁の種による模擬実験を行いました。まず、2006年3月から7月にかけて、ハワイ諸島のカウアイ島でコアホウドリのヒナの飼育実験を行いました。これは、ミッドウエイ島から運ばれた10羽のヒナを野外で人工飼育したもので、4羽が巣立ちに成功しました。しかし、残りの6羽のうち5羽は感染症や悪天候などで死亡し、1羽は飛べずにモントレー水族館で飼育中です(※)。次に、この時の問題点と反省点を踏まえて、2007年3月から6月にかけて、小笠原諸島でクロアシアホウドリの飼育実験を行いました。媒島(なこうどじま)から聟島へ10羽のヒナを運んで人工飼育した結果、9羽を無事巣立たせることができました。そして、野生の親鳥に育てられているヒナとの比較で、体サイズの複数の指標で成長に差がなく、巣立ち時の体重はむしろ飼育個体がやや重いという好結果を得ました。

これらの結果をもとに、環境省の「野生生物保護対策検討会アホウドリ保護増殖分科会」の了承をえて、2008年2月に、鳥島の燕崎繁殖地から約40日齢のヒナ10羽をヘリコプターで移送し、聟島で人工飼育することが決まりました。

アホウドリは、これまで飼育実験を行ってきたコアホウドリやクロアシアホウドリに比べて1.5倍以上に大きくなり、人間に対する警戒心も強い鳥ですので、より一層の努力が必要です。研究員らはアホウドリの一層の復活のために、飼育の成功めざして努力しています。

(※)コアホウドリの飼育実験の内容は2008年3月発行の山階鳥類学雑誌39巻2号に詳しく書かれています。 


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2008年~ 小笠原群島へのアホウドリ再導入計画の飼育結果

<2008年>
<2009年>
<2010年>
<2011年>
<2012年>
  • 伊豆諸島鳥島より小笠原群島聟島まで、ヒナ15羽を移送(2012年2月)*報道資料(PDF)
  • 2008年と2009年に鳥島より移送し人工飼育して放鳥したアホウドリのうち3羽が放鳥地の聟島に飛来。*報道資料(PDF)

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