ヤンバルクイナ その命名・生態・危機

ヤンバルクイナの「発見」40周年

2021年11月10日掲載

沖縄島北部の「やんばる」だけに棲む飛ばない鳥として有名なヤンバルクイナは、1981年に山階鳥研の調査チームが捕獲して、学界に未知の種であることが確かめられたものです。同年12月の新種記載の論文発表から12月で40周年を迎えます。1985年には1,800羽と推定されていたヤンバルクイナの個体数は、フイリマングース(以下、マングース)とノネコという外来生物による捕食が主な原因で、2006年には推定700羽まで減少してしまいました。絶滅間近という状況の中、環境省と沖縄県、地元自治体、獣医師グループ、研究者らによって、さまざまな対策が取られてきた結果、2013年以降、推定1,500羽まで回復し、最も危機的な状況はとりあえず回避できたと考えられています。ここでは現状での課題についてご説明します。

山階鳥研ニュース 2021年11月号より)

ヤンバルクイナ外来生物問題がヤンバルクイナの保全の中心的課題であることは変わりません。沖縄島はその地史から、おそらくは島の形成以降の百万年単位の長い期間、捕食性哺乳類がいない中で生物のメンバーが進化してきており、そこに生きている動物は、ヤンバルクイナも含め、体の作りも行動も、マングースやネコのような捕食性哺乳類に対応するようにできていないのです。

2000年以降、沖縄県や環境省によって開始されたマングースの捕獲は効果を上げていますが、マングースの減少とともに、少ない個体数を相対的に大きなコストをかけて捕獲する状況になりつつあります。しかし、現在、捕獲されずに残っている個体は、罠(わな)にかかりづらい、用心深い個体と考えられ、万一、今、捕獲の手を緩めると、この性質の個体が数を増やして、捕獲事業開始前よりいっそう悪い状況になることが予想されます。ここで手を緩めることはできません。

また、ヤンバルクイナは、捕獲が進んでマングースがいなくなった地域にすぐには分布を回復しないことが分かってきました。この場所に自然にヤンバルクイナが戻るのを待つのか、飼育下で繁殖した個体を放鳥するのがよいかは今後の検討課題です。

飼育下での繁殖は2007年にNPO法人どうぶつたちの病院沖縄が成功しており、その後、環境省の施設が整備され、繁殖技術の知見も蓄積されてきています。絶滅を防ぐためには飼育個体の野外への再導入という選択肢があることが重要で、そのための技術を確立しておくことが大切です。現在、飼育個体が、野生で育った個体と同様に、自然界で起こるさまざまな危険を回避して繁殖までこぎ着けることができるように研究を進めています。

外来生物としてマングースやノネコの対策は進められていますが、観光施設の展示用やペットとして持ち込まれたものが逃げ出したとされるタイワンスジオという外来のヘビが、沖縄島中部に定着しているのは新たな懸念事項です。無毒ですが非常にハンティングの能力の高い種で、やんばる地域に分布を広げた場合、グアム島特産のグアムクイナが外来のミナミオオガシラというヘビによって野生絶滅したように、ヤンバルクイナが大きな打撃を受ける可能性があり、早めの対策が必要です。

さらに在来の生物ではありますが、人間活動の結果増加しているハシブトガラスによる捕食、また、交通事故による死亡を防ぐ対策も必要です。

今年はヤンバルクイナの「発見」40年の節目の年であり、また、奄美・沖縄の世界自然遺産登録が決まった年でもあります。ヤンバルクイナは15年ほど前のような、間もなく絶滅するのではないかという状況からは脱していますが、ここに述べたようにまだまだ懸念されることがらや解決すべき課題があります。山階鳥研としても、引き続き、社会のさまざまな分野の皆様と協力しながらこの問題に取り組んでゆきたいと考えています。

写真:1981年ヤンバルクイナ捕獲チーム

ヤンバルクイナの捕獲チーム。左から3人目が、新種の記載論文の著者となった真野徹氏、その右が佐藤文男 現フェロー、右端が尾崎清明 現副所長(1981年6月28日沖縄県国頭村、安部直哉氏・提供)

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