山階武彦助成金活動レポート

2018年5月10日更新

平成30年度の助成対象者を掲載しました。 → 平成30年度助成対象者

山階鳥研が実施している山階武彦助成事業は、野生鳥獣の保護に関する学術の振興に資する国際会議等に出席する研究者に対し渡航費用などを助成しています。これまで助成金を受けた方の中から、次の方々ににレポートをお願いしました。

平成28年度助成

太平洋海鳥グループの国際会議に参加して

東海大学生物学部・講師 松井 晋

天売島のウミガラス保護の取り組みを世界に発信

山階武彦助成事業から助成をいただいて、2017年2月22〜25日にワシントン州タコマ(アメリカ北西部)で開催された太平洋海鳥グループ(Pacific Seabird Group) の国際会議で、天売島(てうりとう)のウミガラス集団繁殖地の回復に向けた取り組みを発表しました。

この会議は、(1) 情報交換を通して海鳥研究者 の質と量を向上させること、(2) 海鳥への脅威を評価し、政府機関等に個体群管理の専門的アドバイスを提供することを目的に毎年開催されています(今回の参加者は計275名)。

天売島では1963年にウミガラスが約8,000羽生息していましたが、餌資源の低下、流し網漁や刺し網漁による混獲(注)などが原因となって、1960~1990年代にかけて激減。1990年から地元住民がデコイを設置。2005年から環境省はウミガラスの声を大音量でスピーカーから流して、繁殖地にウミガラスを誘引しています。しかし、ウミガラスの集団営巣地にハシブトガラスやオオセグロカモメが頻繁に飛来して、卵やヒナを捕食したため、2008~2010年の巣立ち成功率は33%(12ペア)まで低下。巣立ちを確認できなかった年もありました。天売島の繁殖個体群の絶滅リスクが極めて高くなったことから、2011年からウミガラスの集団繁殖地の周辺で捕食者を駆除する取り組みがはじまりました。そして、この捕食者対策が実施されるようになってから、巣立ち成功率は77%(77ペア、2011~2016年)にまで向上しました。

デビルズスライドロックとウミガラスの写真

一度消滅したウミガラスの集団繁殖地を復活させることに成功したカリフォルニア州のデビルズ・スライド・ロック。天売島のウミガラスの保護活 動は、この成功例を参考に進められた。国際会議の後、2017年2月28日にマイクさんとジェリーさんに案内してもらった。

カリフォルニアのウミガラス保護活動の成功例

今回のアメリカ訪問で、会いたい人がいました。カリフォルニア州のデビルズ・スライド・ロックでウミガラス集団繁殖地の復活プロジェクトのリーダーを務めていたマイク・パーカーさんと、カリフォルニア州のウミガラスの保護プロジェクトの現在のリーダーであるジェリー・マッケスニーさんです。デビルズ・スライド・ロックでは、1982年に約2,900羽のウミガラスが繁殖していました。しかし刺し網による混獲や油流出事故の影響で、1986年には全く繁殖個体がみられなくなりました。そして1996年にデコイ・鏡・音声を使った誘引作戦がはじまります。開始当初は12羽しかいなかったウミガラスが、2005年には328羽にまで増加したことから、2006年にこの誘引作戦は終了。現在は3,000羽以上になっています。

マイクさんやジェリーさんは、天売島のウミガラスが増加傾向にあることをとても喜んでくれました。天売島の集団繁殖地の規模が数百羽に到達するにはまだ長い道のりですが、今後も数が増えて、捕食者対策で人が手助けしなくても、自分たちで捕食者から子供たちを防衛できるようになる日がくることを願っています。

ウミガラスとアオノドウ写真

デビルズ・スライド・ロックに集まるウミガラスとアオノドウ。ここではウミガラスは1月になると繁殖場所を確保するために、早朝に岩に上がる。現地を視察した2017年2月28日にはウミガラス483羽、アオノドウ367羽が岩の上で群れていた。


(文・写真 まつい・しん)

(注)混獲=漁業の網などに、漁獲対象以外の生物 が捕獲されること。

 

「山階鳥研NEWS」2017年9月1日(273号)より

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平成27年度助成

国際会議「北ユーラシアにおけるガンカモ類」に参加して

宮島沼水鳥・湿地センター 牛山克巳

マガン

今回の発表の対象種マガン(宮島沼で撮影)

山階武彦助成事業からのご支援を頂き、国際会議「北ユーラシアにおけるガンカモ類:研究、保全と持続的利用」に参加しました。会議は国際自然保護連合(IUCN)と国際湿地保全連合(Wetlands International)のガン類専門家グループの第17回会合と、北ユーラシアガンカモ類研究グループの第5回会合の共同開催で行われ、2015年11月30日から12月6日の会期で、ロシアの北極圏の町サレハルドに16カ国から120名の参加者が集まりました。

私はマガンの渡りの中継地としてラムサール条約に登録された北海道の宮島沼で専門員として働いていますが、渡り性水鳥の保全と持続可能な利用に関する国際的な枠組みである「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ()パートナーシップ」におけるガンカモ類ワーキンググループのコーディネータを務めさせていただいています。会議では、ワーキンググループによる東アジア・オーストラリア地域フライウェイ(EAAF)におけるガンカモ類の現状に関する特別セッションが設けられ、私はその中で「日本におけるマガンの個体数と渡り」と題し、近年のマガンの増加、渡りの変化、モニタリングの状況などについて発表しました。

国際会議会場の様子

会場の様子。外は零下30度でも室内は暑い。

マガンはかつて国内越冬数のほとんどが北海道の宮島沼を通過していましたが、個体数の増加に伴い、宮島沼を通過しない個体も多くなってきました。渡りの中継地が十勝やサロベツなど道内各地に分散したのは確かですが、北海道を通過せず、本州と大陸を直接行き来する個体も多くなっているものと考えられます。そこで、まずは北海道を通過するマガンの分布と数をきちんと把握しようと、多くの方々の協力でマガンの合同調査が始まりました。今回はその結果と、各地のモニタリングを支援しようと始まった無人航空機(UAV)によるマガンの自動カウントシステムについて紹介することができました。

会議ではカリガネやホシハジロなど希少な、あるいは急激な減少傾向にあるガンカモ類も多く取り上げられていました。いずれも国際的な協力のもとで適切な調査が行われ、保全管理策に結びついている必要があります。EAAFにおけるガンカモ類は、北米やヨーロッパなど他のフライウェイと比べると非常に情報が少なく、保全管理に必要な個体群動態などに関する知見が不足しています。ワーキンググループでは、EAAFにおけるガンカモ類の調査研究と保全管理に関する国内外の連携を推進していきたいと考えていますので、ぜひご協力をお願いいたします。

エクスカーション

ツンドラで生活するネネツを訪問したエクスカーション。

トナカイ

豪快に売られていたトナカイ。

それにしてもなぜわざわざ会議をロシアの辺境の地で行ったのか疑問でしたが、「真冬の北極圏に好き好んで来る人はいないだろうから」と何とも逆説的な(?)理由でした。サレハルド市街を一歩外に出るとそこは広大なツンドラ。会議終了後に行われたエクスカーションでは、巨大なタイヤの雪上車に乗り込んでネネツ人の伝統住居を訪問し、トナカイのそりに乗ったり、伝統的な歩くスキーを体験したり、様々な冬の遊び(熊のような現地の方と力比べ!)をしました。ただ、残念なことに風景は冬の北海道の原野とそう変わらず、雪を掘ってミズゴケを確認してようやくツンドラと実感しました。せっかくならやはり夏に来たかったと主催者を少し恨んだりしましたが、いい経験となりました。
(文・写真 うしやま・かつみ)

(注)渡り鳥の渡りルートを地域レベルで包括的にくくったものがフライウェイで、世界で9つのフライウェイが認識されています。日本はアラスカ、北東アジア、東南アジア、オーストラリア・ニュージーランドにまたがる東アジア・オーストラリア地域フライウェイの中央部に位置しています。

 

「山階鳥研NEWS」2017年3月1日(270号)より

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平成26年度助成

アメリカ鳥学会大会に参加して

立教大学理学部 笠原里恵

2014年9月、山階武彦助成事業から助成をいただいて私が参加したのは、アメリカの鳥学会、AOU・COS・SCOの合同大会でした(図1)。会場はロッキーマウンテン国立公園の東ゲートシティーであるエステスパーク。AOU(American Ornithologistsʼ Union)、COS(Cooper Ornithological Society)、SCO(Society of Canadian Ornithologists)から約800人が参加し、口頭発表は530題、ポスター発表は126題で、そのテーマは自然エネルギー施設が鳥類に及ぼす影響から翼の形態学まで非常に多様でした。


図1. 大会会場の様子(上)と参加した大会のロゴ(下)。会場の標高は2000m 以上で、やや空気が薄かった・・・

私の研究テーマは河川です。水辺に生息する鳥類の環境選択や食物網の研究を通して、河川生態系の構造や機能に理解を深め、地域の特徴を生かした流域環境と生物多様性の維持・回復に貢献できる提案ができればと思っています。今回の発表では、河川の砂礫地で繁殖するイカルチドリとコチドリの分布と営巣環境について、千曲川、多摩川および鬼怒川の3つの河川で調査した結果をポスターで発表しました。対象としたチドリ類2種は砂礫地に営巣しますが(図2)、砂礫地を構成する砂礫の大きさは河川ごとに異なります。過去の砂利採取や河道掘削などにより砂礫地が減少してきている中で、2種の営巣環境の選好性を複数の河川で把握することは、地域的な特徴をとらえた効果的な砂礫地再生に貢献できる可能性があります。今回、3つの河川で上流から下流まで約48km〜68kmを調査した結果、2種がそれぞれに好む砂礫の大きさの範囲が見えてきました。それは、それぞれの河川の砂礫構成を反映しつつも、3河川でおおよそ似ていること、そして各河川での2種の分布は、それぞれの種が好む砂礫の大きさの分布を反映している可能性が示唆されました。

図2. 調査対象のイカルチドリとコチドリの巣と営巣環境。赤い矢印は巣の位置を示している。2 種の好む砂礫の大きさを考慮した砂礫地の管理が今後重要になってくるかもしれない。

2時間のポスター発表の間、多くの方と研究の話で盛り上がりました(コロラド名産のビールがふるまわれていたのですが、手を付ける余裕はほぼありませんでした・・・)。例えば、生息に好ましい砂礫地の維持について。私が調査を行った河川では、チドリ類が好む、植物のまばらな露出した砂礫地の形成には秋の台風などによる増水が重要ですが、アメリカの某河川では、雪解け水が土砂を下流まで運ぶことが水鳥の生息地や採食場所を形成するうえで非常に重要だということでした。地域の気候や地形、生物季節など、河川の生き物の生息場所について考慮すべき点を多くの方と議論できたことは、自身の今後の河川での研究や自然再生を考えるうえで非常に有益でした。今回、貴重な機会を与えてくださった貴助成事業に心から感謝申し上げます。
(文・写真 かさはら・さとえ)

「山階鳥研NEWS」2015年11月1日(262号)より

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平成25年度助成

国際生態学会議に参加して

東京大学大学院 農学生命科学研究科 生態環境調査室 松葉史紗子


写真1:会場入口「INTECOL 2013ロンドンへようこそ」の掲示。英国生態学会100周年にあたり、2000人にも及ぶ生態学関係者が一堂に会した。
私は鳥類相が貧弱とされる東京や神奈川、千葉の市街地で、どのように鳥類の生息地を保全したらよいのかを研究しています。調査の時期になると、街なかの公園や社寺林を巡って1日十数キロを歩き、鳥類の分布を調べています。今回、山階武彦助成事業からのご支援を頂き、2013年8月に開催された国際生態学会議 International Congress of Ecology 第11回大会(写真1)で、これまでの研究成果をポスター形式で発表しました。


大会の大きさを反映してか、発表数も非常に多く、どの発表を聴くかを決めるのにも困難を極めました。魅力的な発表に圧倒されつつも、聴講後には発表者に自分の発表を聴きに来てくれるように頼む、という半ば強引な勧誘をし、そんな根回しが功を奏してか、自身の発表では来聴者との議論で有意義な時間を過ごすことができました(写真2)。発表では東京に整備された帯状緑地の鳥類相に与える影響を報告しました(図1)。帯状緑地は生息地を接続さえすればよいのではなく、利用する種が好む植生環境を整備することが重要で、林床植生を好む種に対しては、高木層のみの帯状緑地は不十分であることがわかりました。生物相が貧弱な都市を対象とした研究に興味を持ってもらえるのか不安がありましたが、都市と同様に人間が介在する農村域や開発途上地域で研究する方から研究成果へのポジティブな反応を得たり、東京で鳥類相が想像以上に豊かなことに来聴者から驚きの声を聞けたことは嬉しかったです。世界有数の大都市である東京は、良くも悪くも注目を集めやすく、東京が将来どのような都市になりえるのか、生態学的な側面から今後も発信していく必要性を感じました。

図1:街路樹といった帯状の緑地によって接続された樹林地間(A)では,孤立した樹林地(B)よりも(森林性)鳥類の移動が活発になり、絶滅リスクが低減する。接続された生息地はエコロジカルネットワークとも呼ばれる。都市に残存する樹林地を接続することで、生息地の機能が高まると期待されている。

基調講演をはじめパネルディスカッションや口頭発表でそうそうたる演者の話を直接聞く機会に恵まれたことも、本大会の醍醐味の一つでした。内容はもちろんですが、Illka Hanski氏が、その講演のはじめに、自分は英語が母語ではないのでゆっくり話します、と告げていたのは印象的でした。大会は様々な地域からの研究者と交流する場となりましたが、それは「多様な英語」に触れるまたとない機会でもありました。英語を母語としない人たちが素晴らしい研究を牽引している姿を目の当たりにして、科学コミュニケーションにおける英語の多様性を体感するとともに、身が引き締まる思いでした。

写真2:ポスターセッション(自分の研究内容を1枚のポスターで紹介する)で来聴者(左)と議論し、名刺交換をする筆者。

他の研究に触れたことや来聴者との対話から、自分の研究の意義をより俯瞰的に捉えられるようになりました。また、他の研究者から受けた刺激や、彼らとのつながりはなにものにも代えがたく、研究への大きな糧となりました。今後の研究を通じて還元していきたいと思います。本機会を与えてくださった貴助成事業に感謝申し上げます。
(文・写真 まつば・みさこ)

「山階鳥研NEWS」2014年3月1日(252号)より

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