読み物コーナー

2018年3月26日掲載

風力発電は、“安価で環境に優しい有望な発電方法” とクリーンなイメージで捉えられています。しかし風力発電は本当にクリーンな発電なのでしょうか?日本でも近い将来急増すると予想される風力発電の利点と問題点について、北海道大学水産科学院の風間健太郎さんに、特に鳥類に及ぼす影響に注目してお話しいただきます。

風力発電が鳥類に及ぼす影響

北海道大学水産科学院 風間健太郎

急増する風車

低炭素社会の創出を目指し、風力発電は世界中で急速に導入が進んでいます。日本の風力発電量は、現状では世界一の中国に比べて1/50程度にとどまっていますが、2050年までに現在のおよそ30倍に増えるという見込みもあります。いくつかの市町村では、風力発電が町おこしにも利用され、原野に立ち並ぶ風車群は環境調和型“クリーン”エネルギーのシンボルにもなっています(写真1)。

写真1 原野にそびえ立つ風車。北海道稚内市にて筆者撮影。

風力発電はクリーン? 多発するバードストライク

クリーンエネルギーを標榜する風力発電は、その建設や運用に際して野生生物に様々な悪影響を及ぼします。鳥は風力発電による悪影響を最も受けやすい生物の一つです。

風力発電施設では、風車と鳥との衝突事故(バードストライク)が数多く発生します(写真2)。バードストライクにより死亡する鳥の個体数は、アメリカ全体で年間最大40万羽にのぼるという推定もあります。日本においてもバードストライクは多く発生します。日本野鳥の会の死体収集調査によれば、国内22カ所の風力発電施設で2000年からの10年間、合計102件のバードストライクが確認されています。衝突し地面に落下した鳥は、キツネなどの捕食者に持ち去られ見落とされる場合が多いため、実際のバードストライク発生数はさらに多いともいわれています。

衝突する鳥の種類は多岐にわたりますが、国内では上述102件のうち猛禽類が半数を占め(写真3)、そのうちのおよそ1/3をオジロワシやオオワシなどの絶滅危惧種が占めています。これらの種では、わずかな死亡率の上昇で種や個体群の絶滅リスクが増大してしまうため、バードストライクの防止は喫緊(きっきん)の課題となっています。

バードストライクが発生する理由はわかっていません。高速で回転する風車を鳥がうまく認識できない、飛翔時に獲物などに気をとられ前方の風車に気づかない、あるいは他個体に追われるなどしてやむを得ず風車に接近してしまう可能性などが指摘されていますが、原因は特定できていません。

写真2 風車のブレード付近を飛翔するオジロワシ亜成鳥(写真右上)。北海道根室市にて道東鳥類研究所 千嶋淳氏撮影。

写真3 風車により右翼を切断されたトビ。北海道羽幌町海鳥センターにて道央鳥類研究グループ 先崎啓究氏撮影。

バードストライクだけではない 風力発電の悪影響

バードストライク以外には、風車建設のために森林が切り開かれるなどして生息地が失われることが指摘されています。国内外のいくつかの研究では、風車の建設前よりも建設後に鳥の生息種数や密度が減少したことが報告されています。ほかには、鳥が風車を避けることによって最短の移動ルートが利用できなくなる(障壁効果)ことも指摘されています。障壁効果によって鳥は迂回飛翔を余儀なくされ、最短距離を飛行するよりも多くのエネルギーを使うことになります。例えば、繁殖期間中のカワウでは、風車を避けるために採餌距離が10km延びると、1日あたり20%ものエネルギーが余計にかかると推定されています。しかし、これら生息地喪失や障壁効果が鳥の生残に及ぼす影響は、現在のところよくわかっていません。

海へも進出する風車

欧州では2000年代以降、風況の良さや陸上建設地の不足を理由に、風力発電が洋上に建設されるようになってきました(写真4)。日本でも2010年代以降洋上風力発電の導入が進みつつあります。洋上風力発電もまた海鳥へ様々な悪影響を及ぼすとされています。しかし、広大な海の上では鳥の分布や行動を詳細に調べることは難しいことに加え、海鳥は陸鳥に比べて行動範囲が広く寿命も長いため、風力発電の影響が広域・長期に及ぶ可能性もあり、その影響の全容解明にはまだ時間がかかりそうです。

写真4 英国Scroby Sands の洋上風力発電。数年後には日本の洋上にも風車が立ち並ぶことになる。(公財)日本野鳥の会 浦達也氏撮影。

影響軽減のために

風力発電の鳥への悪影響を最小限とするためには、十分な調査を実施し、繁殖地や渡りのルート・中継地など鳥が多く分布する地域を避けて建設地を選定することが不可欠です。この建設地選定のためには、鳥の分布や利用環境の情報をもとに風力発電の悪影響がとくに高い場所を予測する手法(リスクマップの作成)が有効とされています。一方、これまで述べたように、風力発電の悪影響は未解明な点も多いため、事前の影響予測に反して想定外の影響が建設・運用後にはじめて顕在化することも予想されます。こうした不確実性に対応するためには、建設後にも継続的なモニタリング調査を行い、運用方法の随時見直しと修正が求められます。欧州の多くの施設では、建設後、鳥の渡り時期あるいは夜間や悪天候時などにバードストライクのリスクが高まることが判明した場合、風車の稼働を一時的に停止するなど柔軟な保全措置がとられています。

鳥に優しい社会を目指して

これまで風力発電が鳥に様々な悪影響を及ぼすことを論じてきましたが、風力発電は他の発電産業に比べて経済あるいは安全上の利点を多数有していることに疑いはありません。今後、導入に際し十分な鳥類モニタリングと適切な影響軽減措置が講じられることで、風力発電が“真のクリーンエネルギー”となることが期待されます。

おわりに、現在人間が鳥にもたらしている脅威は風力発電だけではありません。本稿では、北米での年間バードストライク死亡数を40万羽と推定した研究を紹介しましたが、同研究では、同じく自動車に轢(ひ)かれて死亡する鳥は年間8000万羽、さらには、飼い猫やノネコに殺される鳥は年間10億羽もいると推定されています。今後、環境と調和した、鳥に優しい社会を構築していくために、私たちは風力発電の悪影響の軽減はもちろんのこと、他のあらゆる人間活動が鳥にもたらす脅威の軽減にも努めていく必要があります。

(文 かざま・けんたろう)

山階鳥研ニュース」2018年3月号より

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