所蔵名品から

第3回 日本で初めて発見された巣
-ホシガラス(スズメ目カラス科) -

標 本
ホシガラス Nucifraga caryocatactes の巣
大きさ
大きさ40.7×35.5cm 高さ20cm
採集日
1956年4月21日
採集地
長野県乗鞍岳冷泉小屋
(標高2500m)
採集者
清棲幸保(きよす・ゆきやす)

山階鳥研の標本室には剥製など鳥そのものの標本の他に、巣の標本が220種・980点あまり収蔵されています。その多くはウグイスなどのように小型で樹上に巣を造る鳥のもので、ひとつづつ手作りのボール箱に入っています。けれども中にひとつだけ、ガラスのふたがついた木箱に入っているやや大型の巣があります。この標本にはタイプ打ちのローマ字で、「Hoshigarasu, Nucifraga caryocatactes japonicus HARTERT. 21/IV 1956 Reisen-Goya, Norikura-Dake, Japan Alps. (2,500m), Coll. Yukiyasu Kiyosu 」と書かれたラベルがあり、これが今回紹介するホシガラスの巣です。
日本で繁殖している鳥のほとんどの種は1930年代までに巣が発見されていました。しかし、ホシガラスは留鳥で、給餌されているヒナも見つかっていて間違いなく繁殖しているにもかかわらず、最後まで巣の見つからなかった鳥のひとつだったのです。

この巣の採集者である清棲幸保(きよす・ゆきやす)博士は、1932年以来長年北アルプスで山岳性鳥類の研究を行い、キクイタダキ・キバシリなどの巣と卵を発見してきました。最後に残ったホシガラスは、ようやく1956年になって北アルプス南部の乗鞍岳にある冷泉小屋付近で発見されました。つまり山階鳥研にあるホシガラスの巣は、清棲博士が日本で初めて発見したものなのです。清棲博士はこの巣の発見について、その著書『原色日本野鳥生態図鑑』(1959年 保育社発行)の中で“日本で初めて発見されたホシガラスの巣卵”として写真を紹介し、「キバシリ・ホシガラス・クマタカなどの巣は、めったに発見できるものではなく、ホシガラスの巣は 年来の念願を、1956年にやっと達した」と書いています。山階鳥研にある標本は、まさにこの本の写真そのままです。

ホシガラスは亜高山帯の針葉樹林からそれより高いハイマツ帯にかけて生息しているため、観察に出かけるだけでも容易ではありません。さらに、標本の採集日からもわかるように、巣作りの季節が早いためホシガラスのいるような高山ではまだ雪がたくさん残っているので、親鳥を観察するだけでも大変です。なにより、春の遅い高山でまさかそんなに早くから巣作りを始めるとは誰も予想しなかったのでしょう。その後、信州大学でホシガラスを研究した河辺久男氏は、巣を見つけるのに「死ぬほどの思いをした」と話してくれました。

山階鳥研にある資料の中には、学問的な価値と同時にこのような採集者の苦労やエピソードをもったものが少なくありません。(資料室標本担当 百瀬邦和=ももせ・くにかず)

山階鳥研NEWS 1999年4月1日号(NO.121)より

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