アホウドリ 復活への展望 山階鳥類研究所 アホウドリのページ

アホウドリに2種が含まれることが判明

伊豆諸島の「アホウドリ」と尖閣諸島の「センカクアホウドリ」
別種としての保全が必要に

2021年3月11日掲載

北海道大学総合博物館の江田真毅(まさき)准教授らと山階鳥研の研究グループは、伊豆諸島の鳥島と尖閣(せんかく)諸島に由来する国の特別天然記念物・アホウドリの形態を比較し、これまでに知られていた遺伝的・生態的な違いとあわせて、 両タイプの鳥は別種とするべきだと結論しました。

山階鳥研NEWS 2021年3月号より)

山階鳥研が、伊豆諸島鳥島と小笠原諸島聟島(むこじま)で保全活動を行ってきた絶滅危惧種のアホウドリは、おもに鳥島と尖閣諸島の2ヶ所で繁殖しますが、これまで行われてきた遺伝的・生態的な研究から、鳥島生まれの個体(鳥島タイプ)と尖閣諸島生まれの個体(尖閣タイプ)は別種であり、アホウドリの種内に2種が含まれる可能性が考えられてきました。 つまり、両タイプの鳥は基本的に異なる系統のミトコンドリアDNAの遺伝子型をもつこと(=単系統性)が確認され、両者の遺伝的な差異は他のアホウドリ科の近縁種間より大きく、分化したのは約60万年前と推定されています。また生態の上からも、尖閣諸島では鳥島より約2週間雛の巣立ちが早いことが推定されているほか、同じ場所で繁殖した場合、鳥島タイプと尖閣タイプの鳥はそれぞれ自分と同じタイプの鳥をつがい相手に選ぶ傾向(= 同類交配) が確認されています。

これらの結果に加えて、別種であるかどうかの判断のために、形態の検討が欠かせませんが、繁殖地のひとつが尖閣諸島であることからこの検討が難航していました。

今回の研究では、尖閣諸島から鳥島に移住してきた鳥(尖閣タイプ)と鳥島生まれの鳥(鳥島タイプ) のくちばしの長さや体重などを計測し、比較しました。鳥島生まれのほぼ全ての個体には鳥類標識調査の足環が装着されていることから、足環のない個体は尖閣諸島から飛来したと考えられるのです。その結果、鳥島タイプの鳥は尖閣タイプの鳥よりほとんどの計測値で大きい一方、尖閣タイプの鳥のくちばしは相対的に長いことがわかりました。

今回判明した形態的な違いと、これまでに知られていた遺伝的・生態的な違いから、両タイプの鳥は別種とするべきと結論されたものです。

鳥島タイプと尖閣タイプ

「鳥島タイプ」と「尖閣タイプ」のくちばしの比較

この研究によって、両地域の「アホウドリ」は約60万年もの間、異なる歴史を歩んできた別種であることがわかりました。現在の繁殖地はそれぞれ鳥島と尖閣諸島に限られてしまっており、これまで考えられていた以上に希少な鳥であることは明らかです。今後、それぞれの独自性を保つことを念頭に置いた保全対策の実施が必要と考えられます。そのためには、個体数が順調に回復している鳥島での調査の継続はもちろん、2002年以来まったく実施されていない尖閣諸島における調査が早急に行われることが望まれます。

著者らは、今後「アホウドリ」は鳥島タイプを呼ぶ場合にのみ用いて、尖閣タイプの鳥は「センカクアホウドリ」と呼ぶことを提案しています。なお、「アホウドリ」を指す学名 Phoebastria albatrus をどちらの種が引き継ぐべきかについては、今後、分類学的な検討が必要です。

* 本研究は、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金、および文部科学省科学研究費補助金(課題番号15K14439、研究代表: 北海道大学大学院水産科学研究院教授・綿貫豊)等の助成を受けて行われました。

* ここでご紹介した結果は下記論文で発表されました。
M. Eda, T. Yamasaki, H. Izumi, N. Tomita,S. Konno, M. Konno, H. Murakami, & F. Sato(2020) Cryptic species in a Vulnerable seabird: short-tailed albatross consists of two species. Endang. Species Res. 43: 375–386. doi. org/10.3354/esr01078

* 山階鳥研は、本件に関し北海道大学と共同で報道発表を行いました。(2020年11月20日) → プレスリリースはこちら

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