アホウドリ 復活への展望 山階鳥類研究所 アホウドリのページ

アホウドリ 新たな保全へ

2019年4月3日掲載

伊豆諸島鳥島でデコイ作戦(注1)が始まった当初の1991年から、アホウドリの保全に携わってきた佐藤文男研究員が昨年11月で定年退職し、現在常勤嘱託研究員として勤務しています(※ 執筆当時。2019年4月よりは山階鳥研フェローとなりました。)。

アホウドリはバードウォッチングの世界でも、1990年当時は繁殖地の鳥島近海以外では観察することが難しい鳥でしたが、近年は、季節を選べば東京ー八丈島の定期航路でほぼ必ず観察できるまでになり、増加の実感があります。この機会に佐藤さんにアホウドリの保全の現状と今後について執筆をお願いしました。

山階鳥研NEWS 2019年3月号より)

バードウォッチングでも増加を実感!
アホウドリ 新たな保全へ

保全研究室 常勤嘱託研究員 佐藤文男

アホウドリはどこまで復活したのか

1991年春、アホウドリデコイ作戦は始まった。当時、鳥島から巣立つアホウドリのヒナは毎年約50羽、推定生息数500羽であった。繁殖地は砂の急斜面にあり、繁殖成功率は低く、個体数の増加は遅く、安定した個体群に達するには時間が必要だった。しかし、鳥島は火山であり、常に噴火の危機にさらされていることから、長谷川博氏(東邦大学)が提案したデコイ作戦を早く実行することが必要だった。

30年が経ち、デコイ作戦は鳥島での成功の後、アホウドリ移住作戦と名を変え、作戦の舞台はアホウドリが戦前繁殖していた小笠原諸島聟島(むこじま)へと展開している。2008年から5年間に70羽のアホウドリの雛を鳥島から聟島に空輸、人工飼育し巣立ちさせた。10年が経ち、これまでに約半数の雛の帰還が確認されたが、聟島に定着し、繁殖したのは2個体だけである。結局、この10年間に聟島から新たに巣立った雛はわずかに3羽。作戦遂行は目論見よりもはるかに遅れている。

一方、鳥島では2018年春には雛が708羽巣立ち、個体群総数は5,000羽を超えたと計算された。個体数は30年で10倍以上になった。

図:アホウドリ着地個体数

鳥島新繁殖地(初寝崎)での着地最大数の変化。1995〜96 年の繁殖期に初めて1つがいが繁殖した新繁殖地は現在大きく拡大しています。鳥島個体群の総個体数は2018年の巣立ち期には5,000羽を越えたと推定され、30年間に10倍以上に増加しました。

この結果、鳥島で雛が孵化する1月から、親鳥が給餌を続ける4月まで、親鳥の採餌海域となる伊豆諸島近海でアホウドリに遭遇する確率が格段に増えた。最近5年ほどは、東京〜八丈島間の定期船にこの時期、アホウドリ目当てのバードウォッチャーが多数乗船しているのを見聞きする(囲み記事参照)。アホウドリの復活に尽力した関係者の一人として大変嬉しく思っている。

しかしながら、それでもアホウドリは危機的な状況から 抜け出してはいない。もし繁殖期に鳥島が噴火したらすべてが元に戻ってしまう。非繁殖鳥が生き残ったとしても、その回復にはまた数十年もかかるだろう。聟島の個体群が順調に増加するのはまだ先の話だ。また、尖閣諸島個体群は再発見から50年も経っているのに、現在の推定生息数は数百羽程度。世界に3ヶ所しかない繁殖地。そのすべてで順調な個体数の増加が実現できなければアホウドリは復活を遂げたと言えない。道のりは遠い。

尖閣諸島のアホウドリに集まる注目

2012年、アホウドリを2種とする論文(注2)が発表された。尖閣諸島のアホウドリをDNA研究の結果、別種とするものである。これは環境省レッドリストカテゴリーの見直しにつながる発表であった。なぜなら、これまでアホウドリの保全は繁殖地の箇所数と個体数を一つの基準としてカテゴリーを決定しているため、仮に別種となると両種とも一層絶滅に近いカテゴリーに入る可能性があるからである。

同時に私たちも、鳥島に飛来し繁殖を始めた足環のないアホウドリの行動海域を解明する研究を始めた。足環のないアホウドリがDNAから尖閣諸島生まれであると確認されたことから、その周年行動を明らかにすれば、不明点の多い尖閣諸島のアホウドリと鳥島のアホウドリの行き来の仕組みが解明できるかもと、考えられたからである。尖閣諸島に生息するアホウドリは鳥島のアホウドリと遺伝的に大きく異なる。では形態や生態も異なるのか。

鳥島で繁殖する足環なしの個体の、繁殖期のGPS(注3)調査結果は伊豆諸島北部海域が主な餌場であり、これは鳥島群と同じであった。しかし、夏の利用海域は鳥島群がアリューシャン海域であったのに対し、尖閣群は一部の個体がアリューシャンであったものの、多くがオホーツク海であった。尖閣群はオホーツク海を選択的に利用している可能性があった。この結果が示すことは何だろうか。北海道北部の1,000年前の遺跡から尖閣諸島由来のアホウドリの骨(DNA)が出土することから、当時の尖閣群がオホーツク海域を主な夏の餌場としていた可能性が考えられた。これは尖閣諸島から対馬海峡、日本海、オホーツク海へとつらなる渡りルートを示唆することになる。でも、なぜオホーツク海なのか、尖閣諸島のアホウドリの周年生態が解明できれば、アホウドリが2種に分かれた仕組みが解明できるかもしれない。

ダイナミックな渡りをするアホウドリは、夏を北太平洋で過ごし、秋には鳥島に戻り繁殖することがGPS追跡によって解明されている。そして、同じ個体は毎年決まったルートを行き来し、決まった海域利用をしているようだ。利用海域は鳥島から伊豆諸島、房総半島沖から本州・北海道沖、千島列島からアリューシャン列島へと至るルート上にある。アホウドリが暮らす海洋は広大であるが、大型の海鳥であるアホウドリが餌を採れる海域はかなり限られている可能性が高い。GPSの追跡結果はそのことを示唆している。尖閣諸島への上陸が叶わない今、オホーツク海で尖閣諸島から渡ってきた足環のないアホウドリを捕獲し、GPSを付ければ、その渡りルートが解明でき、「センカクアホウドリ」の保全の第一歩となる。そんな妄想は膨らむばかりだ。

(文 さとう・ふみお)

(注1)デコイ=アホウドリの実物大の模型。鳥島では、地形条件の悪い従来の繁殖地、燕崎(つばめざき)から、デコイと音声を用いて、島の反対側の地形条件のよい初寝崎(はつねざき)に繁殖個体を誘致する「デコイ作戦」が行われた。
(注2)江田真毅・樋口広芳(2012)危急種アホウドリ Phoebastria albatrus は2種からなる!? 日本鳥学会誌 61(2): 263-272.
(注3)GPS=全地球測位システム。人工衛星からの電波を受信することで、地球上の位置を特定できるしくみ。アホウドリに装着した発信器では、このGPSのデータをさらに別の人工衛星を経由して地上に伝えている。

定期船で観察できるようになったアホウドリ

ここに掲載したアホウドリの飛翔写真は、東京〜八丈島の定期航路で撮影されたものです。山階鳥研でも関係者にお配りしている、(公財)日本鳥類保護連盟製作の、2019 年のカレンダーに採用された公募作品です。この写真の撮影者と、この航路での観察に詳しい野鳥ガイドの方にお話をうかがいました。

写真: アホウドリ(坂東俊輝氏)

アホウドリ 2017年4月15日、八丈島〜東京航路。坂東俊輝氏撮影。

撮影した坂東俊輝さんの話
もともと写真が趣味で、30年ほど野鳥を撮影してきました。アホウドリは、以前は繁殖地の鳥島の近海でしか見られなかったので、当時あった、アホウドリのためにわざわざ船を仕立てて鳥島を周回するツアーに参加したり、鳥島を周回することを目玉にした豪華客船に乗って撮影したこともあります。八丈島の定期航路での撮影はこの5年ほどのことと思いますが、ツアーの案内をもらって参加しました。この写真は、八丈島から東京への帰りの船上で、三宅島を過ぎたあたりで撮影したものです。

石田光史さん(野鳥ガイド)の話
アホウドリが見たくて、15年くらい前から、個人的に大洗〜苫小牧航路に乗っていましたが、まったく見られませんでした。10年ほど前に、教えてくださる方があって、東京〜八丈島航路に乗るようになりました。当時は、冬に乗っていたこともあったと思いますが、3割ぐらいの遭遇率でした。その後、3月がよいと聞いて3月に乗るようになり、遭遇率が上がりました。2012年からはツアーを企画して7割ぐらいの確率で見られるようになったのです。最近5年は3月と4月に各1回、ツアーを企画して、行けば必ず見られる状況です。風の強いほうが多く見られるなど、条件次第ですが、八丈島発の復路の三宅島から大島の間の3〜4時間に35羽などという数が見られます。本当にたくさん見られて、増加したことは如実に感じています。

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