山階鳥類研究所 アホウドリのページアホウドリ 復活への展望

アホウドリを調べる

山階鳥類研究所は絶滅危惧種のアホウドリの個体数回復のために、デコイ作戦以外にもアホウドリに関連して各種の調査研究を行っています。鳥の種の保護のためには、単純に繁殖する数を増やすことだけでなく、種の生態や生息環境のようすをよく知って、有効な保護対策を打ち出せるような基礎知識を得ることが重要です。ここではこういった調査研究をご紹介します。

アホウドリを調べる 目次

アホウドリの飛行経路を人工衛星で追跡

1) これまで未知だった洋上での生活を解明する

アホウドリは10月ころ鳥島に帰って来て、卵を産み、ヒナを育てて、翌年の5月ころには鳥島を旅立ちます。5月から10月までは陸地には立ち寄らずに北太平洋を旅しているのです。アホウドリの保護のためには、鳥島でどのような生活をしているかと同じくらい、非繁殖期(島に滞在していない期間)にどの海域でどのような生活しているかを知ることが重要です。また、繁殖期(島で卵を産み、ヒナを育てている期間)についても、ヒナに与えるための餌をどの海域で採っているかを知ることが大切です。たとえば、アホウドリは洋上で、漁船から流される延縄の釣り針をのんで死亡する混獲がかなりの数に上ることが報告されていますが、それが起る海域や実態は明らかでなく対策を立てることが困難でした。洋上の分布を明らかにすることにより、どのような餌資源が重要か、またアホウドリがどのような漁船に混獲される可能性があるかがわかり、有効な保護対策を立てることが可能になります。従来、海上での生態は、船舶からのわずかな観察記録を集めて推測するしかなく調査は極めて困難でしたが、近年、人工衛星による追跡調査が可能になり、洋上の分布の解明に道が開かれてきました。

2) アホウドリに装着する発信機

人工衛星による追跡のために、アホウドリの背中には重さ約40~70グラムの電波発信機を装着します。一般に鳥に足環その他の調査用機器を装着する場合、鳥に影響を与えない重量は体重の4%以内とされていますが、これらの発信機は体重の2%以下ですので問題ありません。装着作業もふくめて個体に与える負荷は皆無ではないかもしれませんが、この調査によって有効な保護対策が立てられれば多くのアホウドリが救われること、逆にいえば、この調査をしなければ多くのアホウドリの死亡してゆく原因をとりのぞけない可能性があることを考えれば、私たちは、限られた数の個体に発信機を装着して調査することには十分な理由があると考えています。

発信機は電池で電波を送っており、電池の寿命は、電波発信の間隔の設定によって調節できます。従来装着したものでは3ヶ月から12ヶ月の寿命に設定しています。発信機は、電池寿命が終了したあと、羽毛の抜け換わりによって脱落するように設計されています。

発信器


発信器

アホウドリに装着した発信機

3) アホウドリからの電波を受信して分析する「アルゴスシステム」

アホウドリの衛星追跡に用いているのは「アルゴスシステム」と呼ばれるもので、1978年にフランスとアメリカが地球環境の保護や観測のために開発したものです。アホウドリの背中に装着した発信機から送られた電波は、地球を回る軌道上を周回している人工衛星NOAAがキャッチし、そこから地上受信局に送られます。そこから、電話回線を経由して送られた情報処理センターで位置の分析を行った後、千葉県我孫子市にある山階鳥研のパソコンに表示されます。アホウドリから送られたメッセージが山階鳥研にたどりつくまでの所要時間は3~4時間です。このアルゴスシステムはアホウドリの追跡の他にも、ツル類やワシ類、オオミズナギドリ等の追跡のほか、クジラやウミガメの調査、海流調査やヨットレースなどに使われています。

アルゴシステム

4) アホウドリはアリューシャン列島で夏を過ごしている

これまでの調査から、5月に鳥島を旅立ったアホウドリからアリュ-シャン列島近海で夏をすごしていることがわかってきました。

アリューシャン

2001年5月に発信機を装着した3個体の例では、5月に鳥島を飛び立ったアホウドリは、本州の沿岸をゆっくりと北上し、北海道の根室半島沖から千島列島近海をたどるルートと、本州東方海上から北上するルートのふたつに分かれ、2羽がアリューシャン列島に移動しました。そのうちの1羽はアリューシャン列島付近の海域に7月中旬から8月中旬まで滞在し、その後、アラスカ湾に移動したことが確認されました。この結果から、アリュ-シャン列島がアホウドリの夏の餌場として重要と考えられます。また、本州の東北地方の沿岸海域も重要な餌場であるようです。

この衛星追跡の調査は、1996年から環境庁(環境省)の委託事業として実施されており、2001年からはアメリカ政府魚類野生動物局との共同調査が始まっています。


▲ このページのトップへ

アホウドリを衛星携帯電話でリアルタイムに観察

1) 困難だった無人島での継続観察が可能に

アホウドリの保護のためには、その生態を知ることが欠かせませんが、繁殖地の鳥島は無人島で、渡島には大きな費用と労力がかかり、長期滞在しての観察はおいそれとはできません。それで従来は、1~2週間前後の滞在での断片的な観察を繋ぎあわせてだいたいの生態を推し量るしかありませんでした。しかし、1998年から導入された衛星携帯電話による動画伝送システムにより、リアルタイムに送られてくる画像によって多くの情報を得ることが可能になりました。

2) 人工衛星を経由して動画を送る

この動画伝送システムはNTTドコモ(株)が開発したものです。観察のための2台のビデオカメラは、デコイ作戦を行っている鳥島西側の初寝崎の斜面に置かれており、アホウドリのデコイへの反応や繁殖番いの行動が写るように設定されています。画像データは、NTTドコモ(株)の衛星移動通信サービスを通じて、約600km離れた千葉県我孫子市の山階鳥研に送られます。カメラのズーミングや首振りの動作も山階鳥研から遠隔捜査で行うことが可能です。なお、鳥島は無人島で電気がありませんので、このシステムの電源は太陽電池パネルによる太陽光発電で賄っています。また初寝崎に設置したカメラは迷彩塗装をほどこした匡体に収め、鳥に対する影響を最小限にするよう配慮しています。

動画転送システム


カメラ

無人カメラの匡体

3) 明らかになるアホウドリの生態

動画伝送システムの画像をお見せしましょう。ここでは、保存した動画からいくつかお見せします。

以下は動画伝送システムで撮影した静伝画です。

動画

2005~6年に初めて繁殖した番いのヒナ
(画面中央やや左)

動画

1995年から繁殖している番いとその2006年生まれのヒナ(画面右半分)

噴火映像

2002年8月の硫黄山の噴煙の映像

この動画伝送システムにより、今まではっきりわからなかったアホウドリの生態が解明されつつあります。抱卵日数が64~65日であることは気象庁職員の観察記録にもありましたが、このシステムでの観察でもそれが確かめられました。また、抱卵は雌雄交代で行ない、片親が連続で10~20日間、最大25日間連続で行なうことが分かってきました。デコイ設置エリアへの若いアホウドリの飛来状況も毎日把握することができ、デコイ作戦の推進にとっても大きな力になっています。


▲ このページのトップへ

アホウドリを脅かす海洋汚染

1) アホウドリ類はプラスチックのゴミを飲みこんでいる

アホウドリ類はおもに海面近くの魚類、イカ類、動物プランクトンなどを食べており、ヒナにも同様のものを与えています。ところが、アホウドリとともに鳥島で繁殖しているクロアシアホウドリのヒナの餌の中に、海上に浮遊するたくさんのプラスチックのゴミが入っていることが分かりました。

胃のゴミ

クロアシアホウドリのヒナ20個体の胃内容から出てきたゴミ

これは、クロアシアホウドリのヒナが実際に吐き出した胃内容物から取り出したものです。クロアシアホウドリのヒナは、調査のために捕獲しますと威嚇のために胃内容物を吐き出します。クロアシアホウドリのヒナには標識調査といって渡り経路や寿命を調べるために捕獲して足環を装着しています(1回程度の胃内容物の吐き戻しではヒナの成長には影響はありません)。この胃内容20個体分から人工物を取り出して集めたものがこの画像です。胃内容からは、発泡スチレン(発泡スチロール)、ゴム状プラスチック、梱包用テープ、シート状プラスチック、テグス、繊維、綿状物、輪ゴム等のプラスチック類が見つかりました。アホウドリ類は親鳥が食べた餌を吐き戻してヒナに与えますので、これらは、海上に浮遊しているものを餌と一緒に親鳥が食べ、雛に与えたものと考えられます。クロアシアホウドリと同様にアホウドリのヒナもプラスチック類を飲みこんでいるものと思われます。

2) 海上の浮遊ゴミを調べる

鳥島のアホウドリ類の生活している海面にどのようなゴミが浮遊しているかの基礎資料を収集するため、山階鳥研では現在鳥島近海で浮遊ゴミの調査を行っています。私たちの生活はプラスチックによって大変便利になりましたが、その陰で、遠い離島に住む鳥たちにまで影響を与えているとすれば大きな問題です。人間が便利でありさえすればよいというライフスタイルを見直すことが必要かもしれません。

海洋調査

海洋調査風景

▲ このページのトップへ