第19回 山階芳麿賞 記念シンポジウム

「子を他人に預ける鳥、カッコウ類研究の最前線」

2016年9月24日(土)東京大学農学部弥生講堂(文京区弥生1-1-1)
【主催】(公財)山階鳥類研究所【共催】朝日新聞社 【後援】我孫子市

2017年4月14日掲載

2016年9月24日、東京大学弥生講堂で、第19回山階芳麿賞記念シンポジウム「子を他人に預ける鳥、カッコウ類研究の最前線」を開催しました。第19回山階芳麿賞を受賞された上田恵介・立教大学名誉教授の研究チームの近年の主要な研究テーマのひとつである、卵を他の鳥の巣に産みこんで育てさせる、カッコウ類の「托卵(たくらん)」の習性の研究について、上田名誉教授と、お二人の教え子に紹介いただいたものです。以下に概略をご報告します。

山階鳥研NEWS 2017年1月号より)

托卵研究はどこまで進んだか?欧米の研究、日本の研究

立教大学名誉教授 上田恵介

名誉ある、大変うれしい賞を戴きましてありがとうございます。

もともと僕は虫の研究者でした。最初、大阪府立大の昆虫学研究室で、修士課程までブチヒゲヤナギドクガというガの個体群生態学を研究したあと、博士課程で、大阪市大の動物社会学教室の山岸 哲(さとし)先生のもとで草原、河川敷などに棲むセッカの研究をしました。一夫多妻のセッカでいちばん多い雌とつがっていた例が一夫十一妻でした。鳥の中で92%ぐらいが一夫一妻と言われている一方、日本ではオオヨシキリなどいくつかの種が一夫多妻になるのですが、一夫十一妻になるのは世界でチャンピオンです。面白い社会システムを見つけたというので博士論文にしました。

立教大学に移って、埼玉県の荒川河川敷の秋ヶ瀬湿地でヨシゴイの繁殖生態を調べていたときに、同じ場所で、松田喬さんと内田博さんというアマチュアの方がカッコウを調べていました。ここで内田さんたちと一緒にカッコウの捕獲をしたのがカッコウとの出会いです。

カッコウの卵はオオヨシキリなどの宿主(しゅくしゅ)、つまり仮親になる鳥の巣に産み込まれますが、孵化したカッコウのヒナは背中にあるくぼみに宿主の卵やヒナを乗せて押し出して捨ててしまいます。宿主は、自分の卵やヒナが捨てられてしまうのに、自分より大きくなったカッコウのヒナを育ててしまうのです。この習性のことは、アリストテレスの時代から知られていたのですが、なぜ宿主は、だまされてカッコウのヒナを受け入れるのだろうかというのが生物学上の大きな疑問でした。

世界的に見ると、1万種ぐらいいる鳥のうち、だいたい1%の鳥が托卵のシステムを持っています。このシステムはカッコウ科が有名で、カッコウ科の中で托卵の習性を持つものは40%ぐらいいます。カッコウ科のなかでも北米のミチバシリ(ロードランナー)、東南アジアやマダガスカルのジカッコウやバンケンといった仲間は托卵の習性はありません。

カッコウ科以外では、アメリカ大陸のカウバード(コウウチョウ)類というムクドリモドキ科の鳥や、アフリカからインドのあたりに生息するミツオシエの1種、ハタオリドリの仲間で尾の長いテンニンチョウ類とカッコウハタオリ類、カモの仲間でズグロガモが托卵します。

これ以外に例えばツクシガモとかオシドリといったカモ類で種内の托卵が見られます。ツバメとかスズメとかムクドリなどの普通の鳥にも種内托卵が知られています。自分の巣をつくって自分で産んで温める一方、1個か2個の卵をお隣の巣に産んでしまう個体がいるのです。

子育ては大変なわけですが、子どもをたくさんつくって、自分の遺伝子を次の世代に残さないと進化しないので、おりあらば子供を増やしたいということで托卵の習性も現れてきます。一方、托卵が起こると宿主の側でも対抗する進化が起こります。ひとつは宿主がカッコウを攻撃する性質です。最も一般的な対抗手段は、カッコウの卵を見分けて捨てるというものです。

卵を捨てる対抗進化が起こると、宿主に似ていない卵は捨てられますから、似た卵を産むカッコウが生き残ってゆきます。モズやアオジはカッコウの卵を捨てますが、ノビタキとかアカモズは托卵の頻度が低いのか、歴史が浅いのかはっきりしないのですが、卵が全然違うのに捨てません。進化というのはそんなふうに起こっています。

日本のカッコウ科4種について順に紹介しますと、日本のカッコウも本州と北海道では托卵相手がかなり違います。北海道のカッコウ集団と本州のカッコウ集団は違うわけです。まだあまり調べられていませんが、そういった地域集団での違いを調べると面白いことが分かるのではないかと思います。

宿主が卵を識別して捨ててしまうようになったらどうなるか。この点は中村浩志先生が調べていらっしゃるのですが、戦前あたりまではカッコウは圧倒的にホオジロに托卵していました。ホオジロの卵は線状紋という糸状の模様がありますが、いま托卵しているオオヨシキリやモズやアオジの卵には線状紋はありません。ところがそういった種に托卵したカッコウ卵にも、ときに線状紋を持つものがあります。昔ホオジロに托卵していて、ホオジロが卵を捨てるようになったために宿主を変えたのだけれど、卵の模様にはホオジロの卵そっくりになっていたときの名残が現れるのではないかと言われています。卵の形態の進化はわりと早いタイムスパンで起こっていたことの一つの証明です。

ホトトギスは宿主のウグイスの卵とそっくりな赤い卵を産みます。『万葉集』にもホトトギスがウグイスに托卵する習性を詠んだものがあり、万葉の時代から少なくとも1,300年間、ホトトギスは宿主転換をしていないということがわかります。カッコウのほうはたぶん何回か見破られて托卵相手を変えてゆくわけですが、ホトトギスはずっとウグイスに托卵してきたわけです。

ホトトギスがなぜそうなったかというのはよく分からないのですが、ひとつ、ウグイスが1回目に繁殖する4月には、ホトトギスはまだ越冬地から渡ってきていないので、ウグイスは被害を受けないということがあります。しかも2回目以降はウグイスの巣の相当の割合がアオダイショウに捕食されて死亡率が高いので、アオダイショウによる撹乱によって、ウグイスとホトトギスという厳しい対立関係は鮮明にならないのかもしれません。

ツツドリについて樋口広芳先生が調べられたことですが、北海道の函館ぐらいまでしかホトトギスはいませんが、旭川などそれより北の地方でウグイスの巣にホトトギスと同じような赤い卵が托卵されていて、調べてみたらツツドリの卵だったということが分かりました。西海功先生がいま調べられているのですが、ツツドリはDNAを調べると系統がほかの3種のようにひとまとまりになりません。ほかの鳥でも同種と思っていたものが北海道と本州以南で遺伝的にずいぶん違う例が知られるようになってきていますが、これも興味深い例です。

ジュウイチはルリビタキ、オオルリ、コルリといった青い鳥を主な宿主として托卵をします。田中さんの話で、ジュウイチの真実が明かされると思います。ありがとうございました。

▲ このページのトップへ

仮親を騙す〝分身〟の術〜ジュウイチ雛の妙技〜

(株)野生動物保護管理事務所・慶応義塾大学文学部 田中啓太

ジュウイチは今回のシンポジウムのポスターに使われたカッコウの仲間の鳥ですが、そのヒナが何をしているかという話です。

自然は嘘をつかないと言う人がいますが、これ自体が嘘です。擬態といいますが、花のふりをして、来た昆虫を食べてしまうハナカマキリや、普段は地味な色なのに、鳥が食べようとすると、目玉模様が突然現れて、相手が一瞬躊躇(ちゅうちょ)したすきに逃げるというガやチョウの仲間、幼虫のお尻の部分にまるでヘビの頭のような模様があって捕食を免れようとするチョウ、卵からいい匂いを出して、アリに巣に持ち帰らせて育ててもらうシジミチョウの仲間など、自然界にはたくさんの嘘が見つかります。

ジュウイチの分身の術について、「論より証拠」ということで皆さんに、ビデオを見ていただきたきます。餌をもった宿主の親鳥が巣に戻ると、ヒナがバッと上げた翼の裏側に口の中と同じような色をしたものが見えたと思います。上田先生と私は、これが「偽」の口なのではないかということで研究を進めてきました。カッコウの仲間は、卵から孵(かえ)ると、巣の中のものを全部巣の外に出してしまって、1羽で育てられるのですが、ジュウイチの場合も同じで巣の中には1羽しかヒナがいません。ところが、翼を持ち上げて黄色い部分を見せていると、育てている仮親は3羽いるのではないかという気分になって、たくさん餌を与えているのではないかという仮説を立てました。

同じ仲間の、種としてのカッコウですと、同じ程度に育ったときには、翼の裏側に一面に羽毛が生えてきていて、皮膚が見えることはありません。今のところ、こんなふうに翼の裏側に羽毛が生えていなくて、それを動かしている鳥というのは世界にただ一種、ジュウイチしかいません。

ちなみに、ジュウイチを育てるルリビタキの口の中は、ご覧のように似ているような、似ていないような色をしています。まず、ジュウイチのヒナの口の中と翼の裏側の羽毛の生えていないあたりが本当に同じ色なのか、調べました。鳥が見ている色は、赤、青、緑の組み合わせの三原色で見ている人間と違い、四原色で、しかもその中のひとつは人間が見えない紫外線が見えるようになっていますので、人間が見て似ているだけでは鳥にとって似ているかはわかりません。そこでジュウイチのヒナやルリビタキのヒナを捕まえて、機械で光の反射を測定しました。そうしたところ、ジュウイチの翼の裏側の色は口の中の色とほとんど重なっていて仮親からみれば同じ色に見えていることが分かりました。一方、ルリビタキの口の中の色は、多少違う色に見えていることが分かりました。

では、実際にジュウイチのヒナにとって「偽」の口を見せるのはどういう意味があるのか実験してみました。ジュウイチのヒナに何も操作をしない条件、翼の裏に透明な液体を塗る条件、それから翼の裏に舞台化粧用の黒い塗料を塗った条件の三つの条件で宿主の餌やりがどう変わるかを実験してみました。最初の二つの条件では雛が3羽いるように見えるので行動が変わらないはずですが、最後の条件では黄色い翼の裏側がなくなってしまうので、宿主にとっては1羽しかヒナがいない。そうすると、こちらでは餌を与える回数が減るだろうと予想しました。

結果はどうなったかというと、黒い塗料を翼の裏側に塗ったときだけ、1時間当たりの餌やりの回数が少なくなりました。翼を持ち上げて裏側の黄色い部分を見せるのは、餌を仮親に持ってきてもらうという意味があるということが、この研究で証明されました。

この研究は、富士山五合目で調査をしていました。ある年のある月、私が歩いた軌跡を図でお見せしますと、こういうふうに富士山の中腹を駆けまわっていたわけです。そして一見すると何もないようなところにコケの生えた岩のすきまに隠れている鳥の巣を見つけて、たまたまその中にジュウイチの卵が入っていると、それをヒナに孵るまでしっかり守る。それで、孵ったら実験をしたり、いろいろな測定をしたりというふうにして研究をしてきたわけです。

さてそれでは肝心の仮親にとって本当の意味でどういうふうに見えているのでしょうか。決定的な証拠を、調査の中でつかんでいましたのでビデオをお見せします。赤外線カメラで暗い巣の中を撮影したものですが、仮の親が口の中に餌をいっぱいくわえて、餌をまさに与えようとしているときに、つい翼の裏側の羽毛の生えていない部分に与えようとしています。こういうふうにして確かに口と間違えているという証拠が見つかったわけです。

翼の裏を自分の口に似せた「偽」の口というのをジュウイチのヒナは持っていて、それによって分身の術で餌を運ばせているということが分かったわけです。

▲ このページのトップへ

南太平洋の托卵をめぐる攻防
〜日本の鳥にはないセンニョムシクイの対抗策

認定NPO法人バードリサーチ 佐藤 望

カッコウがある鳥に托卵を始めると、宿主は最初のうちは気づかなくて托卵されるままですが、そのうちカッコウを攻撃するものがでてきます。それをかいくぐるために、カッコウはごく短時間で産卵するように進化します。このようにお互いが対抗策を見つけると、もう一方が行動を変えたり卵が似たりというぐあいに、どんどん進化してくるので、進化の研究によく使われています。

カッコウの卵を見分ける宿主はいるのですが、カッコウのヒナを見分ける宿主は、今まで知られていませんでした。宿主とカッコウの卵の標本を調べてみると、似ていないものもある一方、そっくりなものは本当によく似ています。このように種としてのカッコウに托卵される鳥は、そっくりな卵でも捨てるものがいる一方で、ヒナは育てるというのが常識になっていたので、ほかのカッコウの仲間はどうなのかというのを研究することにしました。

世界で50種類ほどいる托卵性のカッコウの仲間のほとんどが熱帯に生息しています。この中で日本のカッコウとは類縁が離れたテリカッコウ属というカッコウの仲間を調べました。調べてみると、テリカッコウ属と托卵相手の宿主のヒナがそれぞれそっくりなので、これは、宿主がこのカッコウのヒナを見分けることができるのではないかと考えて研究を始めました。

オーストラリアの北端の熱帯地方、ダーウィンという調査地で研究を始めました。アカメテリカッコウと托卵相手のハシブトセンニョムシクイのヒナはよく似ていますが、卵は模様も色も全然違います。センニョムシクイにとって、托卵は他種の子を育てさせられるだけではなくて、テリカッコウに自分の子どもを巣から押し出されて殺されてしまうので、非常に由々しきことです。

僕たちは、センニョムシクイが托卵に対抗する手段として、生きたテリカッコウのヒナを捨てることを発見しました。巣の中の死んだヒナを捨てる行動はよく知られていますが、生きたヒナを排除するのは、世界で初めての発見でした。両種のヒナどうしはすごくよく似ているので、ハシブトセンニョムシクイが自分のヒナを間違って捨てる行動も僕たちは観察しています。そのようなリスクがあるにもかかわらず、どうしてヒナになってから捨てるのでしょうか。

宿主が托卵されたとき、卵は捨ててもヒナは育てるというのがこれまでの常識でしたが、これは、孵化するとカッコウのヒナは宿主の卵を捨ててしまうので、孵化する前に葬ったほうが安全なのだろうとか、成長とともに特徴が変わって覚えにくいヒナよりも、卵のほうが見分けやすいからだという説明がされていました。僕たちは一度この常識を捨てて、実は卵を受け入れたほうがいい場合があると考えるようになりました。

僕らの仮説を説明します。卵を3つ産む鳥が托卵されると、カッコウは卵を1個持ち去って卵を産むので1個入れ替わります。その後、もし宿主がカッコウの卵を捨てると、巣の中には卵が2個になります。一方で卵を受け入れてヒナになってから排除するセンニョムシクイのような宿主の場合は、そのまま卵の数は変わりません。この後、もう一回、別のカッコウのヒナが托卵すると、卵を排除する宿主では、また1個卵が入れ替わって、せっかく3個産んだのに自分の卵は1個になってしまいます。一方、あえて残しておく場合は、再び違うカッコウの雌が托卵しても、カッコウは前のカッコウの卵を持っていくことがあり得ますので、その場合は自分の卵を守ることができます。カッコウの卵を持っていかなかった場合は、やっぱり卵は二つ失われてしまいますが、こういうことがあるので、後から来たカッコウがもとからあったカッコウの卵をうまく持っていけば、自分の卵は2倍多く守られることが分かりました。このように同じ巣に2回、托卵される場合は実際に僕たちも観察しています。というわけで、一つの巣に複数托卵される状況があって、産卵数が少ないほど、こういうようなヒナ排除が進化するだろうと予想されました。

そこで、実際はどうなのか、オセアニアを舞台にいろいろな場所のテリカッコウとセンニョムシクイを観察してみました。センニョムシクイなど、スズメ目などの小鳥類では熱帯の鳥のほうが温帯の鳥よりも産卵数が少ないのですが、オーストラリア北部のダーウィンのほかに、同じく熱帯のニューカレドニアではセンニョムシクイは産卵数が少なくて、かつ重複托卵をされていて、ヒナ排除行動が進化していました。一方、温帯のニュージーランドではセンニョムシクイは卵をたくさん産んで、重複托卵がなくて、ヒナを排除する行動が進化していなかったのです。このように、各地での観察から僕たちの予想が裏付けられました。

今後の展望ですが、センニョムシクイはカッコウに擬態されている色のヒナ以外にもうひとつのパターンのヒナがいることが、僕たちの研究で分かりました。普通同じ鳥のヒナは同じ色をしているのですが、このようにバリエーションがあるのはほとんど知られていません。これについても新たに仮説を立ててみたのですが、ことごとく予想に反した結果が出てきているので、今後も頑張って研究していきたいと思います。

▲ このページのトップへ

質疑とまとめ

三人の演者の発表のあと、休憩時間に会場からいただいた質問票をもとに、質疑応答を行いました。

司会 托卵について、「どうしてカッコウは托卵を始めたのですか」というご質問があります。

上田 熱帯を中心に百三十何種類がいるカッコウ科のうち、3分の2近くは自分で巣をつくって卵を産んで温めます。北米にいるカッコウで、自分で巣を作って温めるけれども、餌になる昆虫の大発生する年には自分も巣をつくるが、ほかの鳥の巣へ産卵するという習性も知られています。たぶん最初はカッコウたちもみんな自分で巣をつくっていたけれども、何かの状況のときにほかの鳥の巣に産んで、それがたまたま成功してしまったという、それに味を占めて進化が起こったのかなと思いますが、本当のことはよくわかっておりません。

司会 「宿主はどうしておかしいと思わないのでしょうか」という点は?

田中 自分の子どもでない卵を温めているという状況が普通はなくて、とりあえず自分のヒナと思って育てようというほうがたいがいの場合はうまくいくので、それを疑うことが難しいことがあると思います。そこが逆に言うと、托卵鳥がつけいるすきでもあるわけです。

佐藤 見ていると、宿主の鳥は最初のうちは餌を与えます。でも、あるとき突然、「うん? おかしい」というふうになる瞬間があって、しばらくすると与えなくなるのです。最後に「やっちゃえ」みたいな感じでヒナを捨てるので、たぶんいろいろな葛藤をしているのだと思います。そんなに簡単ではないというのは見ていて思います。

司会 人間は理屈で「これはおかしいな」などと思うわけですが、鳥はこれに対して、紋切り型というか、決まった行動がプログラムされていると言われます。鳥が「あれっ?」と思う瞬間というのは、われわれが「あれっ?」と思うのとどれくらい違うのでしょうか。

上田 鳥になったことはないので、鳥が何を考えているかというのは全然分かりません。赤いものがパッと開くとヒナの口だと思って、そこに虫を押し込むような行動はかなり本能的なものです。実際に、北米で金魚を飼っている池の近くで営巣していたショウジョウコウカンチョウの親が、金魚の口に餌を押し込むようになったという例もあります。人間のように理屈で考える考え方はたぶんしていないだろうなと思っています。

司会 そうすると、センニョムシクイがテリカッコウのヒナを捨てるというのも、いわばプログラムで、それが進化したのは、あるとき間違えて捨てた行動が、だんだん広がってきたということなのでしょうか。捨てる行動を意図的にする以外に、突然やってみた鳥がいたというのはよく分からない気もするのですが。

佐藤 正直全く分からないです。子育てのプログラムはすごく重要で、そこが欠けると繁殖ができなくなってしまうので、すごく葛藤をしているし、間違って捨てたりもするわけです。

司会 次は、「宿主に育てられることで刷り込み現象はなぜ起こらないのでしょうか」という質問です。

田中 そのように間違えて宿主を自分の配偶相手と見るように刷り込んでしまったカッコウというのは、繁殖できないので、そういう行動は遺伝的に残らないわけです。刷り込みとそうではない学習は、状況によって働く働かないというのがあるのだと思います。

上田 昔、K・ローレンツが刷り込みを発見したのはガンとかキジとか、地上性の鳥でヒナが生まれてすぐに歩いて、親鳥の後をついていかないといけないという鳥でした。カッコウのヒナはオオヨシキリに育てられたとしても、「カッコウ、カッコウ」と鳴いているわけですから、そういう刷り込みはないのでしょう。一方で、カッコウの雌のヒナが、おそらく宿主をある意味で刷り込まれるんだと思います。つまり、自分が成長して托卵するときに、モズに卵を産むか、オオヨシキリに産むかというのは、自分が誰に育てられたかというので決まっていると思います。

司会 「カッコウは巣立ちした後、カッコウの親と行動を共にするのでしょうか」という質問はどうでしょう。

上田 巣立った後のカッコウの親子関係を調べた研究はないのですが、たぶん巣立ったら自分一人で渡っていくんだろうと思います。

司会 「托卵する鳥は直接宿主のヒナを見ているわけではないのに、擬態できるのはなぜですか」という質問があります。

佐藤 こういうヒナを産もうとして産んでいると思っていらっしゃるのかもしれないですが、そういうわけではありません。例えばセンニョムシクイが色で判断しているとすると、個体によって少しずつ生まれてくるヒナの色は違うので、あまり似ていない色のテリカッコウは捨てられてしまって、自分のヒナに似ているのは受け入れられるわけです。それが何世代も続くと、似ている個体だけがどんどん生き残るので、集団全体は色が変わってくるということです。センニョムシクイが選別すればするほど似てくるのですね。動物も植物も意思があって、大きくなりたいと思えば大きくなるわけではなくて、大きいものが生き残った場合はどんどん集団が全体として大きくなるので、意思は特に関係ないのです。

司会 「ほかの鳥たちがせっせと子育てをしている間、カッコウの雌は何をしているんですか」という質問はいかがでしょう。

上田 カッコウの雌も大変なのです。中村浩志先生が調べられていますが、カッコウはひとつの繁殖期で20個ほどの卵を産みます。3日に1個ぐらい産んでいると思います。托卵が成功するのは宿主が1〜3個ぐらい産んだタイミングです。それを逃すとカッコウの卵が後から孵化することになるので非常に不利になります。ごく短いタイミングを狙って産み込まないといけないので、カッコウの雌は常に、自分の行動圏の中でどの鳥の巣がどうなっているというのを見張っているので、決して楽な仕事ではないと思います。

田中 富士山五合目のジュウイチに電波発信機をつけて追跡したところ、一気に1,000メートルほど下ったことがありました。カッコウの仲間にとって、宿主の巣というのは、自分の子孫が残せる唯一の小さな窓みたいなものなので、それをたくさん見つけるためには、たぶんどんな努力も費やすということなんでしょう。いくら飛べる鳥でも大変なのではないかと思います。

司会 田中さんへの質問ですが、「ルリビタキの口の色は、ジュウイチの口や翼の裏の色と少し違いがあったようですが、それは影響しないのですか」という質問です。

田中 その辺は調べていないので何とも言えないですが、現時点ではルリビタキのヒナの口の中の色と、ジュウイチの口の中の色と翼の裏側の皮膚の色と比べてみると、色味としてジュウイチの色のほうが鮮やかで、仮説として考えるならば、鮮やかなほうが仮親の反応をたくさん引き出すことができるのでそのように進化したのではないかなと思っています。

司会 最後にお三方にひとことずつお願いします。

佐藤 ほかの研究室だったら、僕が突然ニューカレドニアに行きたいと言ったら、だめと言われることが多いと思いますが、先生は「ええんちゃう」しかおっしゃいませんでした。おかげで大発見もできましたが、そういう研究室で自由にできたのが本当に良かったなと思います。

田中 私も同じで、先生が作り出した自由な雰囲気が一番研究の推進力になったと考えています。先生は天才肌で、いろいろなアイデアが湧いてくるんですが、天才にありがちなのですが、結構間違えるのです。そこで自分が勉強しなければという意識は植えつけていただいたと思っています。そうやって科学はいろいろなアイデアが出て、その中で正しいというか、全体に見合った考えが生き残っていくということです。

上田 科学というのは、基本的にチームワークだと思います。ノーベル賞をもらう大先生でも、その人一人でもらっているのではなくて、先生を支える研究室のチームがいてあの成果が出てくる。また、プロの研究者だけが研究に関わるのではなくて、アマチュアのバードウオッチャーはいっぱいいて、僕らの知らないことを発見されています。僕らはアイデアとひらめきをもらって研究に還元していこう。科学はそういう営みではないかと思っています。皆さんもバードウオッチングをしていて、こんなのを見たということがあったら、ぜひお知らせください。そこから研究がまた進むと思っています。

▲ このページのトップへ