鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2021年7月14日掲載

減っている?増えている?カリガネの今を追う

カリガネは、日本に多数渡来するマガンによく似たガンの仲間で、世界的に減少している絶滅危惧種です。日本には近年、300羽程度が渡来します。雁の里親友の会との共同研究として、カリガネの捕獲調査に臨んだ澤研究員に、本種の現状と、捕獲調査のようすについて執筆してもらいました。

山階鳥研ニュース」2021年7月号より

保全研究室研究員 澤 祐介

カリガネという鳥をご存知でしょうか。マガンとよく似たガンの仲間ですが、マガンに比べて少し小さく、写真1に見るように、目のまわりに金色のアイリングがあるのが特徴のとてもかわいらしい鳥です(マガンもかわいいですが)。

写真 カリガネとマガン

写真1 カリガネ(奥の4羽)とマガン(手前の2羽)。カリガネはマガンに比べ、体が小さい、目の周りのアイリングがある、額の前の白い部分が頭頂にまで達しているなどの特徴がある。

日本では増加傾向、しかし海外では

カリガネはかつて、日本ではほとんど見られなかった鳥ですが、最近、日本のガン類最大の越冬地である、宮城県の伊豆沼や蕪栗沼の周辺でまとまった群れが見られるようになってきました。多くなったとはいえ、20万羽もの越冬数になるマガンに比べると少ないですが、2012年には50羽以下だったものが、2019年の冬には300羽以上にまでなりました。

図 宮城県カリガネ越冬個体数

図 宮城県におけるカリガネ越冬個体数の推移。2010年以降、増加傾向が続いている。(資料提供:雁の里親友の会)

世界に目を向けてみると、カリガネは、スカンジナビア半島からユーラシア大陸の東端まで広く分布しています。このうち、東アジアに渡ってくる個体群は、中国と日本で越冬します。2020年に東アジアのカリガネの個体数推移を調べた論文が出たのですが、それによると、なんと1980年代には中国長江流域の東洞庭湖(ひがしどうていこ)を中心に65,000羽も越冬していたものが、2019年には6,800羽にまで激減していたのです(Ao et al. 2020)。中国での減少の要因は、長江にできた三峡ダムの水位管理により、カリガネが好む草丈の低い草原環境が減ってきたことが要因といわれています。

このような危機的な状況の中、日本のカリガネが増えている理由はわかっていません。一部の個体が中国から日本に渡りルートを変えたのか、それとも繁殖地で何か起こっているのか?果たして…。

日本初・発信器装着に挑戦

世界的に滅少しているけれども、なぜか日本では増えているカリガネ。カリガネにとって日本の越冬地の重要性は徐々に高まっており、この謎を解き明かすことはカリガネ全体の保全のために重要なことで、そのためにはカリガネの繁殖地や渡りを特定しなければなりません。カリガネのように個体数が少ない鳥を捕獲する場合、捕獲による影響を慎重に考える必要があります。カリガネは近年増加傾向にあり、個体数も安定してきていることから、捕獲による撹乱(かくらん)の影響も少ないと判断し、2020年12月に雁の里親友の会と共同で、日本初となるカリガネの捕獲を試みました。

カリガネを捕獲するには、まずカリガネがよく利用する場所を割り出さなければなりません。現地で10年以上調査を重ねてきた雁の里親友の会の協力を得て、定期的に利用する採餌場所を特定しました。そこに罠(わな)を仕掛け、カムフラージュをするのですが、いつもと違う雰囲気を察知されてしまうのか罠を仕掛けたすぐあとは、なかなか近くにまで寄ってきてくれません。近くまで寄ってきたと思ったら、オオタカが現れて全てのガンが飛んでしまったりと、いろいろなアクシデントもありました。

待ち続けること1週間。調査最終日についにカリガネ1羽を捕獲することができ、発信器を装着して無事に放鳥することができました。2021年5月現在、継続して追跡することができており、今後のカリガネ研究に大きな期待がかかっています。まずは無事に渡りを終えて秋に日本に帰ってきますように!

写真 日本初標識のカリガネ

写真2 日本初標識となったカリガネ。発信器装着後も元気に採餌していた。

(写真・文 さわ・ゆうすけ)

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