鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2014年12月24日掲載

日本全国で観察されたオオジュリンの尾羽の異常

鳥の渡りなどの生態情報を得るために野鳥を捕獲して行う鳥類標識調査で、2011〜12年の秋冬に、オオジュリンという小鳥で尾羽の異常が多数見つかりました。このことについて調査結果をとりまとめた富田研究員に、内容の紹介をしてもらいました。

山階鳥類研究所 保全研究室 富田直樹

鳥類標識調査

山階鳥類研究所では、1972年から環境庁(2001年以降、環境省)の委託を受け、鳥類の保護と保全事業の国際協力を目的として、全国各地に60ヶ所の鳥類観測ステーションを設置し、鳥類の渡りや生息分布など生態情報を得るため鳥類標識調査を継続的に行っています。また、この標識調査は、約450名のボランティア協力調査員(バンダー)の協力を得て実施しています。ここでは、日本全国で継続して行われている秋の渡り鳥調査で発見されたオオジュリンの尾羽の異常について紹介します。

オオジュリンとは

オオジュリン(学名 Emberiza schoeniclus)は、ホオジロ科の仲間で、スズメより少し小さい鳥です。ヨーロッパから中国東北部、アムール、カムチャツカ、南千島、サハリン、日本に広く分布し、湿原や草原で繁殖します。雄の夏羽は、非常に特徴的で、頭部が頭巾をかぶったように真っ黒になります(写真1)。一方、秋には南下し、河川、池、沼沿いのヨシ原などで越冬します。日本には、ロシア極東部、サハリン、カムチャツカ、北海道、本州北部で繁殖した個体群が、渡ってきて越冬します。この時期には、羽も生えかわり、頭部の色は黄褐色になります(写真2)。ちなみに、夏羽の頭部の黒色は、春に羽が新たに生えかわるのではなく、秋に生えかわった黄褐色の羽の先端が擦れて、下の方の黒色が現れるのです。

写真1 オオジュリン 雄 夏羽
(写真:池田日出男/我孫子野鳥を守る会)

写真2 オオジュリン 雄 冬羽
(写真:池田日出男/我孫子野鳥を守る会)

さて、日本に秋冬に渡ってくるオオジュリンがどこから来たのか?また、どこを通って、どこで越冬するのか?前述の鳥類標識調査によって多くのことが明らかになってきました。例えば、秋冬に宮城県以南の日本各地(宮城県、茨城県、千葉県、愛知県、鳥取県、山口県など)で標識放鳥された個体が、翌年以降の夏(繁殖期)にロシアのカムチャツカ半島で再捕獲(回収)され、逆に、カムチャツカで繁殖期に標識放鳥された個体が日本各地で秋冬に回収されています。つまり、少なくともカムチャツカで繁殖した成鳥、あるいは同地を巣立った幼鳥が、秋から冬にかけて日本各地を通過し、また越冬地として利用することが明らかとなっています。秋冬の国内では、東北地方から関東・中部地方へ、新潟県から愛知県へ、中部地方から中国地方へなど、広く国内を移動していることが分かっています。

2011/2012年の秋冬に日本全国で発見されたオオジュリンの尾羽の異常

標識調査では、鳥を捕獲するため形態の異常などもチェックすることができます。オオジュリンの尾羽の異常が最初に発見されたのは、2011年10月、新潟県の福島潟鳥類観測ステーションでした。オオジュリンの正常な尾羽は、左右対称で12枚の羽からなり(多くの小鳥類も同様)、広げるとイチョウの葉のような形をしています(写真3)。一方、尾羽の異常とは、各羽(特に、中央6枚で多くみられる)に、数ミリ程度の虫食い状の穴が数ヶ所開いているものや、羽枝が途中で溶けたようになり、その先が欠損しているものでした(写真4・写真5)。また、同時に羽の長短も確認されることがあり、正常の羽と比べて平均で5ミリ前後、最大で20ミリほど長く(あるいは短く)なっている羽もありました。福島潟のステーションでは、同年10月から11月に1,553羽のオオジュリンが標識放鳥されましたが、このうち111羽(7.1%)でこれらの尾羽の異常が確認されました。

写真3 正常な尾羽 幼鳥

写真4 異常が見られる尾羽 幼鳥

さらに、日本各地の尾羽の異常の出現状況を調べるため、日本全国のバンダーに調査への協力と情報提供を呼びかけました。その結果、2011年10月から2012年3月の間に、北は新潟県や福島県から、南は鹿児島県まで14 都県17ヶ所から情報が寄せられ、日本全国に渡来したオオジュリンの尾羽異常の状況が明らかになりました。全国で標識放鳥された5,541羽のオオジュリンのうち、767羽(13.8%)で尾羽の異常が確認され、これらのほとんどは、2011年生まれの幼鳥(97.3%)でした。100個体以上を放鳥した地域ごとにみると、静岡県磐田市(25.6%)で最も高く、次いで島根県安来市(20.1%)、茨城県常総市(18.8%)などが続きました。

新潟県のステーションでは、1972年以降継続して山階鳥類研究所の研究員が調査を行っています。調査中、オオジュリンの尾羽は、幼鳥か成鳥かを識別するために必ず確認されており、異常が見逃される可能性は非常に低いと考えられます。これらのことは過去の調査と比べて2011年の尾羽の異常が、いかに多かったかを物語っています。

写真5 虫食い状の穴のあいた羽。右2枚は枠内を拡大したもの。右2枚の写真で左下から右上に向かって平行に並んでいる枝状の構造が羽枝で、これが途中で溶けたようになっている。

2011年以降、毎年、高頻度で尾羽の異常は確認されており、アオジやノゴマなど他の小鳥類でも観察されるようになってきました。この原因として、羽毛に寄生するハジラミや細菌などの外部寄生生物やウィルス性の疾病、甲状腺の異常、放射性物質による遺伝子の突然変異など、様々なことが推測されています。しかし、これまでにこれらの因果関係を裏付ける証拠は得られておらず、現在も原因究明のため調査を継続しています。

(文 とみた・なおき)

『山階鳥研ニュース』 2014年5月号より)

(注)ここで紹介した研究結果は、富田直樹・仲村昇・岩見恭子・尾崎清明(2013)「2011/2012年に日本全国で観察されたオオジュリンを主としたホオジロ科鳥類の尾羽の異常」 日本鳥学会誌 62巻2号 (143-152頁)として論文発表しました。

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