<


絶滅鳥ダイトウウグイスが復活?

~ワークショップ「ダイトウウグイスとは何者か?」~

2004年2月2日 於・千葉県立手賀沼親水広場・水の館

  • ワークショップ【プログラム】
  • はじめに 山岸哲(山階鳥類研究所所長)
  • 日本のウグイスの亜種関係 梶田学(京都大学)
  • 南大東島での再発見の状況 高木昌興(大阪市立大学講師)
  • DNAからみたウグイスの亜種関係 山本義弘(兵庫医科大学助教授)
  • コメント 森岡弘之(国立科学博物館名誉研究員)
  • 総合討論(進行・山岸哲)

「絶滅したダイトウウグイスが南大東島で発見された。」

こんな新聞記事が昨春、掲載されました。ダイトウウグイスは絶滅せずに生き残っていたのでしょうか?

2004年2月5日、手賀沼親水広場・水の館で開催された「希少鳥類の生存と回復に関する研究」成果発表会のワークショップで、発見者やウグイスの研究者、遺伝学者、分類学者が、フロアーも交えてこの問題について話し合いました。


●パネラーのかたがた

山岸 哲・所長

梶田 学さん

高木昌興さん

山本義弘さん

森岡弘之さん

ダイトウウグイスとは
 ダイトウウグイスとはウグイスという種(しゅ)に属する亜種(あしゅ)です。同じ種のなかで地理的に形態の差がある場合に、亜種という分類単位で分けます。亜種ダイトウウグイスは、南大東島で1922年10月に採集され、黒田長礼(くろだ・ながみち)博士がウグイスの新亜種として学術雑誌に発表しました。本州のウグイスに比べて褐色味が強く、くちばしが大きく、翼が短いのが特徴です。その後、南大東島で見られなくなったため、絶滅したと考えられました。環境省のレッドリストは絶滅種(亜種)に指定しています。不幸なことに、新亜種として発表する際に使われた標本(タイプ標本)は大戦中の空襲で焼失してしまいました。
 山岸哲所長はワークショップのなかで「タイプ標本が失われてしまったことが、この問題を複雑にしている」と述べています。というのは、過去にダイトウウグイスとされた標本がない以上、南大東島で発見されたウグイスと直接比較することができないからです。


ダイトウウグイス再発見
2003年南大東島で捕獲されたウグイス
(高木昌興さん提供)
 絶滅したと考えられていたダイトウウグイスについて、最近重要な発表と発見がありました。2002年に京都大学の梶田学さんらが、沖縄島に生息している褐色型のウグイスがダイトウウグイスではないか、と『山階鳥類研究所研究報告』に発表したのです。また、翌2003年4月には、大阪市立大学講師の高木昌興さんと大学院生の松井晋さんが、南大東島でウグイスが繁殖していることを確認したのです。絶滅したダイトウウグイスを発見か?と新聞にも取り上げられ、話題を呼びました。
 このワークショップでは開催の経緯を山岸所長が説明し、沖縄のウグイスを含めたウグイス類全体の亜種関係の話を梶田さんが、南大東島で発見されたウグイスの話を高木さんが発表しました。また、山階鳥研客員研究員で兵庫医科大学助教授の山本義弘さんが各地のウグイスのmtDNA(ミトコンドリアDNA)を分析し、その結果を発表しました。最後に分類学者の立場から山階鳥研客員研究員で国立科学博物館名誉研究員の森岡弘之さんから意見をうかがいました。


沖縄のウグイスと南大東島のウグイス
 梶田さんは日本とその周辺のウグイスの亜種を整理したうえで、「沖縄島では灰緑色の亜種リュウキュウウグイスのみが生息することになっているが、これとは別の褐色のウグイスが生息していて、この褐色のウグイスがダイトウウグイスの特徴と一致する」と、ダイトウウグイスが沖縄にも生息している見解を示しました。また、リュウキュウウグイスについては、サハリンや南千島で繁殖する亜種カラフトウグイスが越冬のため沖縄に渡っているものをリュウキュウグイスとしていた可能性が高いそうです。
 高木さんは、「南大東島で捕獲した成鳥3羽を、ダイトウウグイスのタイプ標本の記述や沖縄の褐色のウグイスと比較した結果、
(1)翼の長さはほぼ一致していて、 (2)くちばしは若干短く、 (3)色彩は褐色だが緑色味が強いようにも見える」と説明しました。また、繁殖確認の経緯について、「モズやコノハズクの生態研究をしていたところ、島の人たちから絶滅したはずのウグイスがいると聞いた。遊び心で調べてみたら、巣を発見した」と話し、ビデオ撮影した映像を公開しました。産み落とされた全ての卵がふ化し、巣立っていったそうです。生息数については、島の人によると'97~'98年から見られるようになり、現在、密度が濃いところでは100メートルに5羽いて、たくさんいる印象を受けるそうです。
 南大東島のウグイスを含む、本州や小笠原、沖縄のウグイスのmtDNAを分析した山本さんは、その結果を次のように話しました。「分析した亜種は小笠原と本州の大きく2つのグループに分かれ、南大東島のウグイスは本州の亜種に近縁。梶田さんによってダイトウウグイスとされた沖縄の褐色ウグイスは小笠原の亜種に近縁であるという結果になった」。遺伝的分析では、南大東島に生息するウグイスと沖縄の褐色ウグイスは近縁でないことがわかりました。


ダイトウウグイスとは何者か?
 これらの話を受けて、系統分類の専門家である森岡さんは、「沖縄の褐色ウグイスとダイトウウグイスが同じだったという梶田さんの見解には同意できる」とし、ダイトウウグイスが環境省のレッドデータブックで絶滅種(亜種)に入るのを見直すべきとコメントしました。また、分類に関しては「沖縄の褐色ウグイス(ダイトウウグイス)と小笠原の亜種が近縁だという見解には疑問が残る」と話し、南大東島で発見されたウグイスを含めて、もう少し検証の必要があることを指摘しました。ワークショップの参加者も同様の意見であり、南大東島のウグイスが何者であるかの結論は、今回発見されたウグイスの形態学や生態学に基づく分類学的研究の進展が待たれることとなりました。
まとめ・小林さやか(山階鳥研NEWS 2004年3月1日号より)


▲ このページのトップへ