読み物コーナー

2019年8月1日掲載

北海道大学植物園・博物館所蔵鳥類標本と
山階鳥類研究所とのつながり

北海道大学北方生物園フィールド科学センター(山階鳥研 特任研究員) 加藤 克

山階鳥研は日本最大の鳥類標本コレクションを所蔵していますが、明治以来の伝統を持つ北海道大学にも貴重な鳥類標本コレクションがあります。特任研究員の加藤克さんに同大学のコレクションのあらましと山階鳥研との関わりについて解説していただきました。

山階鳥研ニュース」2019年7月号より

鳥の標本は生物としての鳥という存在である以上に、採集した人、管理した人・組織、利用した人やそこから明らかになった事柄など、歴史を持っているところが興味深いと私は考えています。私が勤務する北海道大学植物園・博物館の所蔵標本の歴史を見てゆくと山階鳥研の標本とのつながりが見えてきます。今回は、北大標本と山階鳥研とのかかわりについて紹介します。

日本最古のコレクション

北大植物園・博物館は、1877(明治10)年に開拓使の札幌博物場として設置された博物館で、1884年に札幌農学校、現在の北海道大学の博物館となりました(写真1)。博物館の歴史としては、東京国立博物館や国立科学博物館、東京大学の博物館とほぼ同じ時期にスタートしていますが、他の博物館が震災で標本を失ったり、博物館の機能の変更により鳥類標本を移動させたりしているのに対し、北大標本は設置以来大幅な変化を受けず、収集・管理し続けてきたという点で、日本で最も歴史の長いコレクションということができます。20世紀初頭以降、博物館には鳥学を専門とする職員が配置されてこなかったため、大規模な採集活動が行われてきたわけではありませんが、北海道大学における研究の証拠として採集された日本北方域の鳥類標本を中心に収集を継続した結果、現在約12,000点の鳥類標本が所蔵されています。

その収集活動の一部として、ブラキストン標本が有名です。ブラキストンはイギリス人貿易商兼アマチュア鳥類学者で、幕末から明治初期に函館に滞在して、日本の鳥類について研究をしていました。

その名前はシマフクロウの学名(Ketupa blakistoni)でもなじみ深いものですが、北海道と本州との間に動物相の境界線があることを見出し、その業績からブラキストン線の名称でも知られています。彼が函館に残した標本が分散しつつあった状況を危惧した当時の館長八田三郎博士が力を注いで集約した約1,300点が博物館に残されています。

写真1 北海道大学植物園・博物館の旧収蔵庫 (1885年建設)。国の重要文化財に指定されている。

山階芳麿博士との関係

山階鳥研の創設者、山階芳麿博士は旧樺太や千島の鳥類を研究対象にしていたこともあり、鳥学研究に専念することになった1929(昭和4)年に北海道を訪れました。その際には北大の博物館にも立ち寄り、所蔵標本に関する論文を発表しています。北方域の鳥学研究を推進したかった山階博士と担当者がいなかった博物館の利害が合致したのでしょう、『山階芳麿の生涯』(1982.山階鳥類研究所.青木営治 編著)には何度となく北大博物館から山階邸に鳥類標本の箱が届けられ、研究に利用されていたことが記されています。またブラキストン標本の一部には山階博士が付したとみられるラベルも確認されます(写真2)

これらの協力の成果として、山階博士との共著になるブラキストン標本、ワシタカ類、ガンカモ類の目録(写真3)が刊行されました。掲載されている標本番号が現在利用されていないことや、情報に少なからず誤りがあるため、利用にあたっては注意が必要ではありますが、博物館の長い歴史の中で標本目録はほとんど刊行されておらず、博物館活動の歴史にとって記念碑的存在になっています。

写真2 北大に所蔵されているブラキストン標本。囲みのラベルは山階博士が付与したものか。

写真3 山階・池田による北大博物館所蔵ガンカモ類標本目録(1932年)

山階鳥研所蔵標本との関係

ここからは、山階標本の中にある、北大植物園・博物館とかかわりのある標本について紹介してゆきましょう。山階博士は1931年7月に大雪山で採集を行っていますが、その前後に採集された標本の採集者として犬飼、市川の名前を確認することができます。両者は北大植物園・博物館の職員であり、採集に協力していたことがわかります。また、山階標本の中核の一つである折居彪二郎(おりいひょうじろう)採集標本も、折居が北海道に住まいを持ち、北大教員とも交流があったことから、1,000点を超える標本が北大に残されています。

東京大学から山階鳥研に移管された鳥類標本群の中にも、北大由来の標本が確認されます。1880年ごろ東大と北大との間で標本交換が行われていて、北大から送られた標本が現在も山階鳥研の収蔵庫で活用されています(写真4)。逆に東大標本群と同じラベルをもつ標本が北大に残されています(写真5)。また、1点のみですがブラキストンから東大に寄贈されたヤマゲラの標本が山階鳥研に所蔵されていることがわかりました。ブラキストン標本という意味でも北大標本と山階標本は関連があるコレクションといえます。

写真4(上)山階鳥研に所蔵されている札幌農学校由来標本とそのラベル。写真5(下)北大に所蔵されている東大由来標本とそのラベル。ラベルの「理科大学」は現在の東京大学理学部。

標本が保持する歴史

北大に所蔵されている古い標本台帳を 眺めていると、そこに登録されている標本が見つからないことがよくあります。 そういったときに山階鳥研のデータベース(注)を検索してみるとその標本が見つかることもあります。標本史研究をテーマにしている私が山階鳥研に魅力を感じるのは、その歴史の深さだけでなく、標本のつながりから自分の職場にいるような感覚を受けるからかもしれません。

標本には多数のラベルが付属しています。そこには、その標本に関わった人・組織の歴史が刻まれています。山階鳥研のデータベースの魅力は、ラベルを画像で確認することができるところにあります。鳥の名前や採集地で検索するだけでなく、様々なラベルを見つめながら、これはだれがどのように使っていたラベルなのだろう、と思いをはせてみてはいかがでしょうか。

(注)山階鳥研標本データベースURL:https://decochan.net/

(写真・文 かとう・まさる)

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