研究・調査

大きく変わった鳥の分類 ー日本鳥類目録改訂第7版ー

2014年2月27日掲載

2012年9月に「日本鳥類目録」改訂第7版が刊行され、新記録の鳥が多数、日本産鳥類として加えられるとともに、分類についても大幅な改訂が行われ、研究者やバードウォッチャー、そして図鑑を発行している出版社等にも大きな波紋が広がりました。この改訂について、作業に携わった山崎剛史・研究員に解説してもらいました。

(山階鳥研NEWS 2014年1月1日号より転載)

日本鳥類目録とは何か?

いまから約100年前の明治45 年(1912年)、東京大学において日本鳥学会が産声を上げました。日本をはじめとする東アジアの国々にどのような鳥がいるのか、まだあまりよく知られていない時代、鳥学の中心は分類学にありました。そのころの研究者は各地を冒険したり、採集人を派遣したりして鳥を捕まえ、新種や新亜種を見つけ出し、命名することに懸命だったのです。

そして、学会の設立から10年を経た1922年、それまでの分類学研究の集大成として、記念すべき『日本鳥類目録』の第1版が出版されるに至りました。これはその当時、日本に分布することが知られていたすべての鳥類を収録した書籍で、その後の日本の鳥学発展の基礎をかたちづくるものでした。この本はその後今日まで、順次情報のアップデートが加えられてきました。2012年秋には、学会創設100周年を記念する出版物として、『日本鳥類目録改訂第7版』が世に出されたのです。

日本鳥類目録

「日本鳥類目録」の初版(上段左端)から、今回発行された 第7版(下段)まで。

この第7版をとりまとめるにあたっての当研究所の貢献は大きなものだったと思っています。もともと研究所のルーツは、創設者の故・山階芳麿博士が自身の分類学の研究を進めるため、各地から集めてきた標本類や文献等を保管していた『山階家鳥類標本館』にあります。このため、目録の編纂に必要とされる資料が充実していたのです。もちろん、これら資料が博士亡き後も散逸せずに維持してこられたのは、多くの皆様のご支援があってのことでした。また、当研究所は鳥の研究者ばかりが多数集まる研究機関です。「2012年秋に行われる100周年記念式典に必ず出版を間に合わせるように」という厳しいお達しのもと、欠かせないマンパワーの多くを研究所のスタッフが担ったのです。

編集委員会には、私のほか、平岡考・齋藤武馬・浅井芝樹・岩見恭子の各氏が研究所から参画しました。印刷所に原稿を渡す期限が差し迫った真夏の夜、さながら戦場のような雰囲気に包まれた研究所のことはいまも強く印象に残っています。

分類検討作業風景

分類検討のようす

大きく変わった鳥の分類

さて、何とか記念式典に出版を間に合わすことのできたこの書物、世間の評判はどのようなものだったのでしょうか。感想として私がよく耳にしたのは、「内容が大きく変わっていて戸惑った」というものでした。前版の第6版は20世紀最後の年、2000年に出されています。日本国内から新種や新亜種が見つかることがめっきりなくなったこの21世紀の時勢の中、どうして読者が驚くほどに目録の内容が変わったのでしょうか。

その理由の一つは、やはりデジタルカメラの普及にあると思います。第6版の編集が行われていた時代、デジタルカメラは高価で、カメラと言えばもっぱらフィルムを使うものでした。思えばそのころの私はまだ学生で、八重山諸島に出かけて行ってはシロガシラの観察にいそしんでいました。当時の写真はハードディスクには入っておらず、アナログのスライドとしていまもキャビネットの中に保管されています。フィルムカメラに比べ、手軽に扱えるデジタルカメラ、この機材が普及したおかげで、迷鳥の観察の証拠がとても残しやすくなりました。この結果、第7版の収録種数は第6版の542種より15%以上も増え、633種を数えるにまで至ったのです。

目録の内容が大きく変わったもう一つの理由は、20世紀後半から続く、分類学の大躍進に求めることができるでしょう。じつは分類学は、新種や新亜種を発見、報告するだけの学問(このような学問領域を専門用語で「α(アルファ)分類学」と言います)ではないのです。見つけ出した種や亜種を、皆様もきっとご覧になられたことがあるでしょう、界・綱・目・科・属といったグループに理路整然と位置づける、これも分類学者に求められている大きな仕事なのです(こちらは「β(ベータ)分類学」とよばれます)。鳥類については、この分野が近年、非常にホットな学問領域として、日進月歩の発展を遂げているのです。

「β分類学」とは、簡単に言ってしまえば、どの鳥とどの鳥が親戚なのかを考える学問のことです。分類学者は研究によって明らかになった進化の道すじをもとに、類縁関係の近いものを同じグループにまとめ上げていくのです。この分野の研究者はかつて化石記録の精査や比較解剖学の研究成果のみに基づいて、過去の進化の歴史を推定していたのですが、最近になり、彼らは新しい武器を手に入れました。それは「分子系統学」とよばれるもので、遺伝を司るDNAの塩基配列情報を分析機器で読み取って比較することによって、鳥たちの類縁関係を解き明かしていきます。

シークエンサー

分子系統学に欠かせないシークエンサーの一例。この装置でDNAの塩基配列を読み取る。

この技術が急速に普及した結果、ここ十年ほどのあいだに、これまでには分かっていなかった鳥たちの驚くべき類縁関係が次々に明らかになってきました。例えば、ハヤブサはタカではなく、むしろインコや小鳥に近い鳥であること、フラミンゴはカイツブリのなかまであることなどが分かってきました。

第7版は、このような「分子系統学」の登場による分類学の大躍進の成果を積極的に取り入れたことで、前版に比べ、大幅に内容が変化したのです。とはいえ鳥たちの類縁関係については、いまもまだはっきりと分かっていない部分が多くあります。例えば、私たちにとってとても身近な鳥であるハト類、これに近縁な鳥がなんなのかすら、明らかでないのです。残された謎に対する研究者の挑戦はこれからも続いていきます。90年前に誕生した『日本鳥類目録』、その〝進化〟は今後も続いていくことでしょう。

なお、『日本鳥類目録改訂第7版』は日本鳥学会のウェブサイトで購入することができます。

(自然誌研究室 山崎剛史=やまさき・たけし)


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