鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2025年7月30日掲載

奄美大島の絶滅危惧種アマミヤマシギの標識調査

自然誌・保全研究ディレクター水田拓

アマミヤマシギを調べる

前回の山階鳥研ニュースでお伝えしたとおり、2025年1月に発行された日本鳥学会の英文誌 Ornithological Science 24巻1号において、日本の鳥類標識調査に関する論文の特集号が組まれました。ここではそのうちの一編、「Survival and movement of the endangered Amami Woodcock Scolopax mira revealed through banding on Amami-Oshima Island(標識調査によって明らかになった奄美大島における絶滅危惧種アマミヤマシギの生存と移動)」を紹介します。

この論文は、NPO法人奄美野鳥の会の鳥飼久裕さん、川口秀美さん、そして奄美野鳥の会にも所属する山階鳥研の水田が共同で執筆したものです。内容は、環境省のアマミヤマシギ保護増殖事業の一環として奄美野鳥の会が実施したセンサスと標識調査に関するものです。この調査では、2002年から2018年まで17年間に704個体ものアマミヤマシギが捕獲、標識されています。

写真 ベニアジサシを狙うネコ

写真 捕獲したアマミヤマシギ。金属足環と色つきのプラスチック足環を装着して放鳥する

アマミヤマシギを捕獲するのはそれほど難しくありません。この鳥はとてものんびりしており、夜に林道を自動車で走ると道路上にぽつんと立っていることがあり、近づいてもなかなか逃げようとしません。そこで、この鳥を見つけたら自動車から降り、大きなたも網を持ってライトを当てながらゆっくり接近し、じゅうぶん近づいたらたも網をそっとかぶせて捕まえるのです。捕獲した個体に対しては、標識をしたり各部の計測をしたりといった一連の作業を行います。標識は、環境省の金属足環とともに色つきのプラスチック足環もつけて、次回から観察するだけで個体が識別できるようにします。作業が終わったのちはもとの場所に放します。

明らかになったアマミヤマシギの生存と移動

そうして標識された704個体ですが、再確認されたのは全部で258個体(37%)とあまり多くありませんでした。標識から再確認までの平均期間は1年未満で、3年以上経過して再確認された個体はわずか14個体(5%)でした。一方で、7年以上経ってから再確認された個体もいました。再確認される回数は少なく、258個体の74%は一度しか観察されていません。なかには7回も観察された個体もいますが、基本的には再確認される個体は少ないといえます。アマミヤマシギはあまり長生きをしていないのかもしれません。あるいは、道路に出てくること自体がそれほど多くない可能性も考えられます。道路上でよく見かけるためこの鳥は道路が大好きなんだと思っていましたが、同じ個体に着目すれば、じつはそれほど頻繁には道路に出てこないのかもしれません。

調査中から、標識個体は捕獲地点に近い場所で再確認される印象がありました。そこで、標識地点と再確認地点がわかっている119個体についてその距離を調べたところ、四分の一以上(31個体)は200m以内で見られていました。平均の距離は548mで、印象どおりアマミヤマシギはあまり遠くまでは移動せず、特定の場所に定着する傾向があると考えられます。

アマミヤマシギの保全のために

この調査で確認できたアマミヤマシギの最長生存期間は7年強でした。実際にはもっと長生きする個体もいるとは思いますし、そもそも道路上に繰り返し出てくること自体が少ないのかもしれませんが、確認された生存期間が長くないのは意外でした。アマミヤマシギの生存に影響を与える要因が何かしらあるのかもしれません。個体群に大きな影響を与えていた外来種のマングースは2024年に根絶されたので、今後はもっと長生きする個体が確認されるようになるとよいのですが。

また、アマミヤマシギは一度定着するとそこから大きくは移動しないこともわかりました。この鳥が観察されるのは主に常緑広葉樹林の中なので、あまり動かないということは、これまで考えられてきたとおり、アマミヤマシギにとって広葉樹林がとても大切な生息環境であることがわかります。国立公園の区域が指定され、世界自然遺産にも登録された現在は、森林環境の保全はかなり進んだといえますが、引き続き森林の管理は重要な課題です。世界自然遺産登録とマングースの根絶は、間違いなくアマミヤマシギの保全にとって有効でした。ただし、懸念がすべてなくなったわけではありません。この調査中にも捕食者となりうるノネコを観察することは頻繁にあったし、交通事故にあった死体を発見するのもまれではありません。ノネコは対策が進められているものの依然奄美大島の山の中に生息していますし、交通事故の件数は近年増加傾向にあります。これらの課題を解決することはアマミヤマシギの保全にとって必要不可欠です。

標識調査は渡り鳥の移動を調べるのに有効な調査手法ですが、アマミヤマシギのような留鳥性の希少種を対象に実施しても、保全に重要な基礎的なデータを収集することができます。標識調査の希少種への適用は、今後ますます重要になってくると思われますし、そうあってほしいと願います。

(文・写真みずた・たく)

山階鳥研ニュース」2025年7月号より

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