2025年7月28日掲載
山階鳥研では、伊豆諸島鳥島(以下、鳥島)と小笠原諸島聟島(むこじま 以下、聟島)で、アホウドリの繁殖状況についてモニタリングを実施しています。アホウドリの繁殖期は10月から翌年5月までで、1ペアで1羽のヒナを育てます。ヒナは巣立ちから3~5年ほど経つと、巣立った場所に戻ってきて繁殖に参加するようになります。しかしすぐ繁殖に成功するわけではなく、ヒナを巣立たせるようになるまでさらに数年がかかることがあります。
アホウドリは、かつて羽毛採集のために大量捕獲されたことが原因で絶滅したと言われましたが、鳥島で再発見され、その後の関係者の手厚い保全活動により数が増えてきています。しかし、鳥島は火山島で繁殖地としては不安定なことから、かつての繁殖地であった聟島に鳥島からヒナを移送して人工飼育し、これらの個体をもとに新繁殖地を形成させる事業が2008年から2012年にかけて実施されました。現在は、鳥島と聟島※1で山階鳥研がアホウドリのモニタリングを毎年、年に数回行っています。どちらの調査でも、ヒナにはすべて個体識別のための番号がついた足環がつけられます。
今シーズンの鳥島調査は2024年11月と2025年2~3月に行われ、1,337羽のヒナが確認できました。現在の推定個体数は約9,500羽で、順調に回復しているといえます。2、3月には、アホウドリの集団営巣地の前からライブ配信を行いました。
今シーズンの鳥島から:(左上)崖でアホウドリの声が反響する燕崎、(左下)ヒナに足環をつける、(右)初寝崎のヒナ
2008年に移送され巣立った個体(足環番号Y01)が2011年から聟島に戻ってくるようになり、野生個体とペアになって繁殖を開始してから4年目、移送開始から8年目の2016年になってようやくヒナ(Y75)が誕生しました。初の聟島生まれです。このペアからは、2020年まで計5羽のヒナが巣立ちました。
Y75が繁殖に参加した2022年からは繁殖ペアは2組になり、2024年は3組めも卵を孵化させ、初めて1シーズンに3羽のヒナが確認されました。そして、今シーズンもこの3ペアから3羽のヒナ(Y87、Y88、Y89)が誕生しました。また、2022年に生まれた個体(Y80)が初めて聟島に戻ってきました。今後の繁殖参加が期待されます。
1シーズンに誕生するヒナの数が増えるということは、個体数の増加を意味するだけでなく、周辺に飛来する別の個体にそこが繁殖適地であるというアピールになり、ここで営巣するペアの増加につながります。鳥島での観察から、10ペア以上が安定して繁殖するようになれば、繁殖地として自立できると考えられます。2シーズン連続して3羽が誕生したという現在の状況をみれば、聟島が安定した新繁殖地になるという目標の達成に向かって着実に進んでいるといえるでしょう。
※1:東京都小笠原支庁からの委託。
今シーズンの聟島から:(左上)貫禄の出てきたY01、(右上)初帰還のY80、(下)若いカップル、右の個体はY80
今シーズンの聟島から:今シーズン生まれのヒナ