研究・調査

希少鳥類の生存と回復に関する研究

3. 鳥類の生態及び個体群動態と保護施策に関する研究

私達のグループの研究目的は、1)鳥類の個体群変動のモニタリング 2)ツル類の個体群動態や渡りなどの研究 3)沖縄に生息する希少鳥類の生態研究と保護施策の検討 の3つに分けられる。

まず、第一は日本に生息する留鳥や渡り鳥に関して、生態の解明と個体群の変動を長期的にモニタリングするシステムを構築することである。それは、現在普通種と思われている種類でも、いつの間にか個体数が減少して、希少種の仲間入りをするものがありうるからであり、その兆候を科学的にモニタリングしておくことが重要だからである。例えば近年ヨーロッパでは、スズメの仲間の個体数が急速に減ってきており、過去の記録と現状を比較しながら原因の究明にとりかかっているとのこと。日本では、1981年までホオジロ科の中で最も標識放鳥数が多かったカシラダカが、その後減少傾向にあることが判明した(図1)。普通種であったハマシギでも、最近減少傾向にあることが報告されている(本紙150・162号参照)。

渡り鳥では、こうしたモニタリングを繁殖地から越冬地におよぶ広範囲で実施することが必要であり、日本周辺では、東アジア地域全体で共通の調査データを収集するネットワークも必要となってくる。幸い山階鳥研はこれまで文部省や環境省のODA事業として東アジア地域で、鳥類標識調査の研修を実施してきた経緯から、この地域の多くの鳥類研究者と交流がある。そして研修の結果、いくつかの国では独自に標識調査を実施するようになってきており、それによる標識のデータも蓄積されている。これらのデータを各国で共有することも重要なことである。

図1 ホオジロ3種の新放鳥数年変動

図1 ホオジロ3種の新放鳥数年変動。3種の放鳥数合計は1980年以降ほぼ倍増しているが、カシラダカは半分以下に減少した。

第二は、すでに現在希少種であるツル類に関して、個体群動態や渡りの実態解明、さらに有害化学物質による汚染状況の把握を目指している。渡りをするナベヅルとマナヅルについては、越冬地である鹿児島県出水地区でカラーリングを装着した個体の観察を継続し、個体群の動態を調査している。また、マナヅルの繁殖地としては最西端のモンゴル東北部において人工衛星用発信機を装着して、その渡りを追跡中である。留鳥のタンチョウについては北海道東部で、個体群動態を調査するとともに、斃死体および放棄卵より、重金属と有機塩素系化合物の分析を行っている。初年度の結果から、タンチョウも他の水禽類や猛禽類と同様に、鉛汚染の例外ではないと考えられ、さらに詳細な分析を実施している。

モンゴルで衛星追跡用発信機をつけたマナヅル

モンゴルで衛星追跡用発信機をつけたマナヅル

第三として、沖縄本島北部における希少鳥類のなかで、特にヤンバルクイナについては、1981年に山階鳥研が発見した新種であることから、その動向について関心を持っている。初年度はこれまでの生息調査結果を解析し、この15年間に分布域が25%減少したことと、その地域にマングースが進出してきたこととの関連が深いことを明らかにした(図2 本紙147号参照)。また、やんばる地域で拾得された哺乳類の糞からヤンバルクイナの羽毛が見つかり、この糞を北海道大学遺伝的多様性研究室の協力でDNA分析したところ、イエネコのものであることが確認されたことにより、ヤンバルクイナがイエネコの捕食害にあっていることを証明した(本紙155号参照)。今後、さらにヤンバルクイナの生態を解明するために、小型電波発信機を用いた調査も実施し、保護施策に役立つ研究を目指している。

図2 ヤンバルクイナの生息域南限の変化

図2 ヤンバルクイナの生息域南限の変化

メンバーは、所内からは尾崎・佐藤・茂田・米田・馬場・吉安・百瀬研究員で、所外からは、小野勇一・北九州市立自然史博物館長(研究責任者)、小池裕子・九州大学大学院教授、正富宏之・専修大学北海道短期大学教授、古賀公也・阿寒国際ツルセンター研究員、松本文雄・同研究員、井上雅子・釧路市動物園学芸員、伊澤雅子・琉球大学教授の他、国外研究者も4名含まれている。

(山階鳥類研究所 標識研究室長 尾崎清明)※役職当時
~山階鳥研NEWS 2002年12月1日号より~


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