鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2023年4月3日掲載

絶滅危惧種のガン類の渡り調査を行っています

山階鳥研と雁の里親友の会(池内俊雄事務局長)は、絶滅危惧種のガン類であるコクガンとカリガネの生態解明のため、発信器の装着などにより調査を進めています。使用した発信器は、GPS衛星からの電波を受信し、位置情報を算出して、携帯電波網で送受信するものです。

山階鳥研ニュース」2023年3月号より

コクガン

コクガンはユーラシアと北米の北極海沿岸で繁殖し、温帯で越冬するガン類で、世界的には絶滅危惧種に指定されていませんが、環境省レッドリストでは絶滅危惧II類に指定されています。日本では秋に、北海道東部の野付半島を中心に、約8,600羽が渡来するものの、国内の越冬数は約2,500羽で、残りの6,000羽あまりの越冬地が不明です。

山階鳥研の澤祐介研究員を含む研究チームは、11月8日〜16日の調査で、野付半島で12羽のコクガンを捕獲し、このうち10羽に発信器を装着しました。

捕獲したうちの1羽は、2021年11月5日に同地で捕獲し発信器を装着した個体で、放鳥後、函館市に移動して越冬し、6~8月まで北極圏ノボシビルスク諸島で夏を過ごした後、再び11月に野付湾に帰ってきたことが、発信器のデータから確かめられていました。

函館にもどったコクガン

2011年11月に函館で捕獲されてから北極圏まで往復して1年経って函館に戻ったコクガン(色足環「G4」の個体)。初捕獲時(左)(2021年11月5日)、再捕獲時(中)と発信器を取り外したあと(右)(2022年11月12日)

発信器をつけた個体が再捕獲される例はガン類では珍しく、1年後に同じ場所で再捕獲された例はコクガンでは初めてです。この個体の発信器は取り外し、「G4」の刻印のある色足環と、環境省の金属足環は残して放鳥されました。

コクガンの移動

発信器で確かめられたコクガン(色足環「G4」の個体)の移動。6~8月まで北極圏ノボシビルスク諸島で夏を過ごした後、再び11月に野付湾に帰ってきた

カリガネ

カリガネはユーラシア大陸の北極圏で繁殖し、温帯地方で越冬するガン類で、IUCNレッドリストのVU(絶滅危惧II類相当)、環境省レッドリストでは絶滅危惧IB類に指定されています。

近年、東アジアで越冬する個体群は、主要な越冬地である中国で急激に減少している一方、日本では渡来数が増加傾向にあり、どのような要因でこのような増減が起こっているかの解明が保全のために必要と考えられています。

澤研究員を含む研究チームは、12月12日〜16日、宮城県内の越冬地でカリガネの捕獲を行い、6羽に発信器を装着しました。2020年以来昨年までに11羽に発信器を装着しており、これまでの調査で日中の個体群は行き来があり、渡り中継地も同じ場所を使っているものがあることが分かっています。中国での減少と日本での増加の要因についてはさらにデータの蓄積が必要と考えられ、今後の調査に期待がかかります。

図 カリガネの渡りルート

発信器を装着されたカリガネ

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