鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2013年7月4日掲載

減っていたスズメ〜標識調査のデータから

近年スズメが減少傾向にあると言われていましたが、山階鳥研が長年おこなってきた鳥類標識調査のデータを利用した研究からも減少していることがわかりました。今回はこの研究のプロジェクトリーダーである三上修さんにわかりやすく解説していただきました。

ここで紹介されている研究は、「 標識データに見られるスズメの減少」(三上修・森本元)(山階鳥類学雑誌, 第43巻1号 pp.23-31)としてまとめられています。

『山階鳥研ニュース』 2012年7月号より)

本当に減っているのか

日本国内でスズメが減少していることは、1980年ごろから、言われてきました。しかし、それらの多くは感覚的なもので、定量的なデータに基づくものではなかったのです。そこで私は、農業被害データ、狩猟統計データなどを用いて、スズメが減少している可能性について言及してきました。

2010年からは、三井物産環境基金より研究助成を受けて、スズメの減少を把握するためのプロジェクト、スズメプロジェクトを立ち上げました(代表・立教大学上田恵介教授)。このプロジェクトでは、減少要因の解明を目的としていますが、同時に、スズメが減少していることをより多角的に見ることも目指しています。そこで、スズメの個体数の変動を検討するために、山階鳥類研究所が行っている「鳥類標識調査」のデータに注目したのです。

スズメ

標識調査データの性質

鳥類標識調査は、かすみ網によって鳥類を捕獲し、足環をつけて放す調査です。どの鳥がどこで何羽捕獲されたのか、長年のデータが蓄積されています。もしスズメが減っていれば、それだけ捕まりにくくなるわけですから、標識調査によって捕獲されるスズメの数も減るはずです。

ただし、毎年、捕獲されるスズメの数は、調査の規模や天候に影響をうけます。そこで、そういった影響をなるべくなくすために、ステーションと呼ばれる標識調査が定期的に行われている地点のデータのみを対象とし、かつ、スズメだけでなくすべての鳥の捕獲個体数をみて、そのうち何割がスズメだったのかを解析する手法をとりました。つまり、すべての鳥の捕獲数を調査努力量として考えたわけです。

なお、このデータを解析する前にひとつの覚悟をしていました。それは、「解析結果がスズメの減少を示していようといまいと公表する」、というものです。なぜなら、「結果をみて、減少しているから発表する」という立場をとると、研究に対する中立性が保たれなくなってしまうからです。

やはり減っていたスズメ

結果は、幸い(?)なことに、「全鳥類種の総捕獲数はあまり変化していないのに、捕獲されたスズメの割合は減少傾向にある」というものでした(図1)。これをより詳しい統計解析にかけると1987年から2008年までの約20年間に、スズメの個体数は6割減少したと推定されました。この推定結果は、全国規模でスズメの減少を示す他の3つのデータとも整合性がとれており、スズメが減少していることをより補強するものとなったのです。では、なぜスズメは減少しているのでしょうか。我々のプロジェクトでは、今、その要因を明らかにしようとしているところです。

図1 鳥類標識調査によって放鳥された全種の個体数(A)と、スズメの個体数(B)。標識調査の記録は、非常に貴重な資料であり、今後、多くの研究で活用されれば、日本の鳥類についてこれまで目を向けられなかったようなことまでわかってくることが期待できる。

岩手医科大学 共通教育センター 生物学科 講師 三上 修

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