鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2013年7月4日掲載

軽量記憶装置ジオロケータで希少な小鳥類の越冬地が初めて判明

ブッポウソウとマミジロ

山階鳥研では、小型の鳥類に装着可能な軽量記憶装置(ジオロケータ)を用いて、これまで不明だった、日本で繁殖するブッポウソウとマミジロの越冬地を特定しました。ジオロケータによる小型鳥類の移動研究は日本では初めてです。詳細は、9月に大阪市立大学で開催される日本鳥学会大会で発表します。

『山階鳥研ニュース』 2011年9月号より)

ブッポウソウ、マミジロを含む夏鳥(日本で夏に繁殖し、国外で越冬する渡り鳥)には近年減少が指摘されている種が多く含まれ、ブッポウソウは環境省のレッドリスト(2006)で絶滅危惧IB類に指定されています。またマミジロも減少が懸念されています。夏鳥の減少の原因として越冬地の環境破壊も指摘されてきましたが、多くの種では国外の越冬地が不明で、このことが減少要因を特定する障害になっていました。

巣箱に飛来したブッポウソウ。背の中央やや後方に白く見えるのがジオロケータ(撮影:飯田知彦氏)

2010年6〜8月にかけて、ブッポウソウ10羽(広島県と鳥取県)とマミジロ15羽(静岡県)にジオロケータを装着して放鳥した結果、2011年6月末までにジオロケータ8個(ブッポウソウ6、マミジロ2)を回収しました。このうち、ブッポウソウとマミジロ各1羽についてのデータ解析から越冬地が判明しました。広島で繁殖していたブッポウソウはボルネオ島北部(繁殖地から直線距離で約3800キロメートル)、静岡県で繁殖していたマミジロはカンボジア南西部(同約4400キロメートル)で越冬していました(下図)。渡り経路や速度などは解析中ですが、ブッポウソウのうち鳥取県で繁殖していた別の個体(図の点線)は9月上旬に渡りを開始して東シナ海を一昼夜かけて横断し、中国大陸経由で渡ったことがわかりました。

 

今回判明したブッポウソウ(左)とマミジロ(右)の越冬地

ジオロケータには、位置の測定誤差が大きいため短距離の渡り調査には不向きなことや、必ず再捕獲が必要なことなど、技術的な制約もありますが、今回の成果で小型鳥類の移動を調べるのに有効な手段であることが確かめられました。今後は足環を用いた標識調査と併用することで、小〜中型鳥類の渡り研究に活用されることが期待できます。

この研究は、飯田知彦、菊池博、桐原佳介、土居克夫、土井安彦、原徹の各氏との共同研究として実施しています。

ジオロケータとは

明るさを記録するデータロガー(記録装置)の一種で、動物に装着後、一定期間が経過してから回収し、日長と南中時刻のデータを取り出し、移動経路の緯度経度を推定できます。従来、海棲哺乳類や大型の海鳥などに用いられてきましたが、近年軽量化が進み、北アメリカで小型鳥類の渡り研究に使用されてから(2009年発表)、各国で小型鳥類に使われ始めています。

今回使用したもの(写真)はイギリス南極研究所製で重さは1円玉より軽い0.9グラムです。

ジオロケータ

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