鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2012年4月2日掲載

鳥類アトラス 鳥類回収記録解析報告書(1961〜95年)

山階鳥研では、環境省の委託事業として鳥類標識調査を行っています。その調査によって得られたデータのうち、1961〜95年(35年間)のものを解析しまとめた「鳥類アトラス」をご紹介します。

(『山階鳥研ニュース』2007年3月号を一部修正)

『鳥類アトラス 鳥類回収帰国解析報告書』


1961〜95年(35年分)の標識調査データから74種分を抜き出して地図上に示し、そこに解説を加えたもの。環境省請負事業として山階鳥研が作成。

なお、本書は非売品ですが、次の場所でご覧頂けます。
(公財)山階鳥類研究所 自然誌研究室 電話 04-7182-1101
(事前予約必要)

また、環境省生物多様性センターのウェブサイト(>> 生物多様性センター鳥類標識調査のページ)にも掲載されています。


データは標識調査により集められます

1924年に始まった日本の標識調査は、戦争などで一時中断しましたが、1961年農林省が山階鳥研に委託して再開、その後1972年から環境庁(現在の環境省)の受け持ちとなり、現在に至っています。

標識調査(バンディング)では、鳥に番号の異なった金属足環などをつけて放鳥し再び回収(標識のついた鳥を見つけ、その番号を確認)します。主に鳥の渡りのルートや寿命などを調べることができます。

講習を受け資格を持った全国の標識調査員(バンダー)はたくさんの鳥に足環を付けて放しますが、すでに足環を付けられていた鳥を捕獲した場合は、その足環の情報などを標識センターに送ります。その他一般の方がひろったり、狩猟により撃たれた鳥についていた足環の情報も回収記録となります。これらの回収記録はすべて山階鳥研内にある標識センターに送られ一括管理されます。

海外から送られる同様の情報も重要です。外国で足環を付けられた鳥が国内で回収された場合には山階鳥研からその国のバンディングセンターへ照会し、反対に海外からの問い合わせに情報を提供するなどして各国間で相互に情報を共有し協力しあっています。

こうして集めた情報を解析してみると、これまで不明であった鳥の生態が少しずつ明らかになり、中には注目すべき回収例が見つかることがあります。

標識調査と「鳥類アトラス」の役割

日本に来る渡り鳥がどこから飛んでくるかということは、その鳥が何を食べるか、卵をいくつ生むか、巣立ちまで何日かかるかというようなことと同様その鳥の基礎的な情報で、最低限の知識として知っておく必要があります。

なぜなら、現在その鳥がたくさんいても、いざ保護の必要ができてから調べていたのでは間に合わないからです。予め情報を得ていれば、いざという時に効果的な対策を立てられることでしょう。

近年はツル類など大型の鳥類には衛星追跡できる電波発信機を装着して渡りを追跡する方法もあります。しかし、シジュウカラなどのような小鳥の渡りの経路を確かめるには足環標識による調査しかありません。

その他、鳥の生息域や数の変化などから環境変化の兆候を読み取る研究も進んでいます。長距離を渡る鳥の動向は、地球規模の環境変化を反映していますので、それをうまく標識データから読みとることができれば、有効な環境対策を立てることができるかもしれません。

近隣諸国との間で結んでいるいわゆる「渡り鳥条約」の渡り鳥リストを見直す際や、今後同様の条約を他の国と締結する際にも有効な基礎的データを提供することができるでしょう。

日本中のボランティアバンダー・日本国内外の関係者による地道な努力の積み重ねにより標識調査は行われています。この標識調査によって生まれた「鳥類アトラス」が今後各方面で役立てられることを期待しています。

シジュウカラの回収記録

●は放鳥地、実線は6ヶ月以内の回収、破線は6ヶ月以降の回収

シジュウカラ
(1992年2月 東京都練馬区 撮影:西巻実氏)
日本では小笠原諸島を除く全国で見られる身近な鳥です。一般に留鳥(一年中同じ場所にとどまり繁殖と越冬を同じ場所で行う鳥)とされていますが、左の図に示されたように、近年の標識調査により北海道と本州の間を渡っている個体がいることが確認されました。

キアシシギの回収記録


●は放鳥地、実線は6ヶ月以内の回収、破線は6ヶ月以降の回収

キアシシギ
(2005年5月 三番瀬(千葉県)撮影:西巻実氏)
日本では旅鳥として、全国の干潟・河川・水田などの水辺に春と秋になると飛んできます。千葉県で5月に放鳥され繁殖地とされるロシアのマガダン州で回収された例や、越冬地のひとつであるオーストラリア・ニューサウスウエールズ州で4月に放鳥され翌年以降の5月と8月に千葉県で回収された例、また3月に台湾で放鳥され8月に千葉県で回収された例などがあります(左図)。このように標識調査により、この種はシベリア北東部で繁殖し、日本などを経て東南アジアやオセアニアで越冬している、という渡りのルートが裏付けられます。


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