鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2008年3月25日掲載

標識調査にカラーマーキングとデジタル写真が活躍

クロツラヘラサギの新繁殖地と日本との往来が判明
ハマシギの繁殖地の巣まで特定

絶滅危惧種のクロツラヘラサギや、近年日本への渡来数の減少が懸念されているハマシギで、標識調査により海外との渡りの証拠が得られる事例が相次ぎました。野外観察で放鳥地がわかるようにカラーリング(色足環)などを装着した個体により判明したものですが、望遠鏡にデジタルカメラを装着して撮影する「デジスコ」等の、高倍率の画像を残せる光学機器によって、通常は再捕獲しないと確認できない金属足環の番号が判読され、個体の特定に役立ちました。

『山階鳥研ニュース』 2007年3月号より)

クロツラヘラサギは東アジアの限られた地域でしか繁殖せず、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定されています。そのクロツラヘラサギのカラーリング付きの個体が、2006年10月22日に島根県出雲市の斐伊川河口で野津登美子さんにより観察・撮影され、10月26日以降、鳥取県米子市の米子水鳥公園で同公園ネイチャーセンターの職員らによって観察・撮影されました(写真)。米子では「デジスコ」によって金属足環の番号も判読され、問い合わせの結果、同年7月11日にロシア沿海州のピョートル大帝湾にあるフルゲルマ島の繁殖地でロシア人研究者のY・シバエフ博士によって標識されたものとわかりました。また、この繁殖地では、2005年3月7日に沖縄島豊見城市で尾崎清明標識研究室長らが標識放鳥した個体が、シバエフ博士によって2006年7月12日に観察・撮影されていたことが判明しました。フルゲルマ島は2003年夏に新たに発見された繁殖地で、日本との本種の行き来が確認されたのはこれが初めてです。

左;米子水鳥公園で撮影されたロシアの標識付きのクロツラヘラサギ(2006年12月4日)。右;金属足環番号B-176997の一部分が見える(同年11月26日)
(両方とも、鳥取県米子市 撮影; 桐原佳介)

ハマシギについては、2006年9月18日に石川県羽咋市で観察・撮影されたカラーフラッグ付きの個体の金属足環の番号がデジタル写真により判読され(写真)、同年7月17日にアラスカのポイント・バローから約100マイル(=約160km)南西の地点で抱卵中に、現地の研究者によって標識された個体であることがわかりました。ハマシギのアラスカからの渡りの例は従来も報告されていますが、繁殖地の巣の場所まで特定できる事例は初めてです。

石川県に渡来したアラスカの標識付きのハマシギと金属足環(右)。
金属足環番号1681-80483の一部分が見える。このような写真8コマで番号を読み取った。
(2006年9月18日 石川県羽咋市 撮影;大野一郎)

尾崎室長は「近年、デジスコの出現もあって金属足環の判読例が増えている。写真を撮影される方が、今後とも、鳥の生活を脅かさないよう十分注意しながら、足環情報の判読にご協力いただければ大変うれしい」と述べています。

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