〇尾崎清明・馬場孝雄・米田重玄・広居忠量(山階鳥研)
原戸鉄二郎(安慶田中学校)・渡久地豊・金城道男(沖縄フィールドワーク)
ヤンバルクイナの生息域と生息数に関して山階鳥類研究所では1996年より調査を実施し、一部の結果は2001年と2002年に報告したが、今回はその後の調査によって判明した状況を含めて取りまとめた。調査は音声再生装置によって本種の鳴き声を再生し、その反応を確認するプレイバック法を用い、結果を地域標準メッシュ(東西1.3km×南北0.9km)に整理した。なお、ヤンバルクイナの生息状況の調査は、環境庁によって1985年度にほぼ同様の方法で実施されており、近年の調査結果と比較した。
1985-86年の調査でヤンバルクイナは大宜味村塩屋-東村平良ライン以南でも生息が確認されていたのに対し、1996-99年の調査では国頭村謝名城周辺-東村福地ダム周辺以南で生息が確認できなかった。2000-01年の調査では生息の確認できなかったラインがさらに北上して国頭村比地-東村大泊となった。2004年の調査ではついに東村と大宜味村でヤンバルクイナはほとんど確認されなくなった。この結果ヤンバルクイナの生息域の南限は、1985年からの20年間で約15km北上し、生息域の面積は約40%減少したと推定される。
生息域減少の原因として、沖縄本島中南部から北部に分布を広げているマングースや、野猫・ハシブトガラスによる捕食などの影響が示唆される。このうちマングースに関しては、沖縄県や環境省によって駆除事業が実施されており、その捕獲される地域が次第に北上していることから、ヤンバルクイナの生息域減少との関連性が最も濃厚である。
一方、プレイバック法で得られた結果により推定生息域における生息密度を推定し、これを定点調査によって得られたプレイバック法への反応率によって補正すると、ヤンバルクイナの生息数は約810羽(2004年)と717羽(2005年)と推定された。環境庁の1985年の調査では、ラインセンサスで出現(鳴き声)した個体数から生息密度を求めて、植生で代表される生息環境の面積にかけることで、個体数をおよそ1,800羽と推定しており、これと比較すると2005年の推定結果は約60%の減少となった。
今回の研究は、文部科学省の科学研究費と公益信託サントリー世界愛鳥基金の助成を得て実施した。また、沖縄県自然保護課や環境省が実施したヤンバルクイナやマングースの調査結果も参照した。