読み物コーナー

2020年9月10日掲載

ツンドラの大地に憧れて

保全研究室研究員 澤 祐介

2020年6月に着任した澤研究員は、学生時代にツンドラ地帯に興味を持ち、鳥の生息環境としてのツンドラを見てみたいと思うようになったそうです。ここに至るまでの経緯と、それを今後の研究活動にどのように生かしたいのか、自己紹介を兼ねて話してもらいました。

山階鳥研ニュース」2020年9月号より

突然ですが、渡り鳥の観察や調査をしていて、「渡り鳥が渡っていく場所に一緒に行ってみたい」と、一度は考えたことはないでしょうか? 私は、日本で越冬する多くの渡り鳥の故郷であるロシアやアラスカ、特に北極圏やツンドラの大地に憧れをいだき、いつか行ってみたい!と思い続けてきました。今回は、自己紹介と合わせて、渡り鳥やツンドラに興味を持ったきっかけについてお話しいたします。

澤研究員写真

ロシアのツンドラで(著者)

ツンドラに興味を持つきっかけとなったライチョウ

初めて、“ツンドラ”という言葉を意識し始めたのは、大学院修士課程の時でした。修士課程でライチョウをテーマに生息地選択の研究をすることになったのですが、実はライチョウに惚(ほ)れたのではなく、高山帯の美しさに惹(ひ)かれ、ここで研究をしたいと思ったのが決め手でした。世界でのライチョウの分布の中心は、北極圏のツンドラ地帯です。研究で論文を読み進めていくと、ツンドラに生息するライチョウは、ハイマツが優占する日本の高山帯に生息するライチョウとは、生態が少し違うということがわかり、「本場のライチョウの生息環境であるツンドラをみてみたい!」と漠然と思うようになりました。

ライチョウ写真

日本のライチョウはハイマツの生える高山帯に生息する。

私とロシアをつなげてくれたユリカモメ

修士課程修了後、東京の隅田川のほとりにある民間会社に就職しました。就職してまもなく、バンダーのライセンスを取得し、隅田川で越冬するユリカモメの標識調査を始めました。調査開始当初は、越冬期の行動範囲などを知りたいと思っていたので、繁殖地のことはあまり頭にありませんでした。しかし、2015年4月に隅田川で標識したユリカモメが、6か月後の10月に、ロシア・カムチャツカ半島で観察され、しかも12月には再び隅田川に現れたのです。実際にこのユリカモメが見てきた光景を見たい!そして、「ロシアのツンドラに行きたいんだ!」と具体的に思うようになりました。

ユリカモメ

隅田川で標識したユリカモメはカムチャツカ半島でも観察された。

憧れのツンドラに連れて行ってくれたコクガン

機会が巡ってきたのは、2016年でした。「雁の里親(さとおや)友の会」が企画したロシアで繁殖するコクガンの調査へのお誘いをいただいたのです。決して安くない参加費でしたが、当時の職場を説得し、5週間の休暇もいただき、念願のツンドラでの調査を実現することができました。初めてのロシアのツンドラは、見渡す限りの大平原。繁殖期の鳥たちは、冬に日本で見るよりもピカピカしていました。渡り鳥の生活を理解するためには、渡りルートを通して鳥を見ないといけないのだとこのとき痛感しました。

コクガン

憧れのツンドラで見たコクガン。

日本に来る渡り鳥の繁殖地を実際に目にする機会に恵まれ、感じたことは、渡り鳥を研究し、保全するためには、国際協力が不可欠であるということです。今後、鳥類標識調査事業やモニタリングサイト1000に従事することとなりますが、国内だけでなく、海外の研究機関との協力関係も構築しながら、研究や保全に貢献していきたいと思います。

(写真・文 さわ・ゆうすけ)

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