読み物コーナー

2026年1月21日掲載

所員エッセー 鳥類研究者がニホンオオカミを研究?

研究員 小林さやか

2024年2月、国立科学博物館(以下、科博)の標本収蔵室からニホンオオカミの剥製が見つかった、という論文を、中学生の小森日菜子さんと、科博研究員主幹の川田伸一郎さんと3人で発表しました。この剥製が世界で6体目のニホンオオカミの剥製にあたることや、発見者が中学生だったこともあり、テレビや新聞などで取り上げられたので、ご存じの方もおられるかもしれません。

写真:科博収蔵室にて

2022年7月27日、川田伸一郎さん(左)、小森日菜子さん(中央)、筆者(右)の3人で小森さんが見出した剥製を調査した。科博の標本収蔵室で、小森日出海氏撮影。

研究のきっかけ

2020年、小森さんが小学4年生のときに、科博のオープンラボで見学中に標本棚にニホンオオカミと思われる剥製を見出しました。小森さんはこの剥製について独自に調べ、小学5年生のときにまとめた自由研究で文部科学大臣賞を受賞しました。小森さんが見つけた剥製は、科博の前には、東京帝室博物館が所蔵していた標本でした。東京帝室博物館は、現在の東京国立博物館で美術工芸品が専門ですが、明治・大正時代には自然史標本も所蔵していたのです。そして、私はこの東京帝室博物館の鳥類標本を研究しています。ある日、私の論文を読んだ小学生の小森さんから質問の電話がかかってきて面食らってしまいました。電話口で、小学生に明治・大正時代の、教科書にも載っていないような博物館の歴史を説明して通じるのかな?と疑問に思ったので、メールでやり取りすることにしました。文章だったら、本人がわからなくてもご両親がサポートしてくれるかもしれないと思ったからでしたが、私の心配をよそに、小森さんははじめから私が説明することをよく理解していました。

論文の出版

小森さんはコンクールで一番よい賞をもらっても、小学生の自由研究としてしか扱われないことに満足していませんでした。それでは、と後押ししたのが、論文としてまとめることでした。剥製の所蔵先である科博の川田さんからも同意が得られたのは、たいへん幸いなことだったと思います。小森さんと私で根本からこの剥製の背景を調べ直し、川田さんからも形態の知見を入れてもらって、数年かかって論文を出版するにいたりました。私がこの研究に関わりたいと思ったのは、小森さんの「この剥製の存在を広く知ってほしい」という想いでした。私も対象は鳥類標本ですが、今まで埋もれていた情報を見つけ出したときは同じように思うので、とても共感できました。

またまた発見

論文を出版してからも小森さんは、ニホンオオカミ標本の調査を続けています。そんななか、伊勢神宮で祭主を務めている黒田清子さんから紹介していただき、私と小森さんで神宮徴古館が所蔵する、ある頭骨を見せてもらうことになりました。この頭骨は、ニホンオオカミと伝わっているとして個人から神宮に寄贈されたものの、種は不明確とのことでした。学芸員の小山朝子さんから頭骨と一緒に箱に入っていた書簡を見せてもらったところ、ニホンオオカミの研究者であった斎藤弘吉氏が頭骨を借用した際に所有者に宛てた礼状でした。これを手がかりに小森さんが文献を調べたところ、斎藤氏がこの頭骨を調査してニホンオオカミと同定していたことがわかりました。頭骨を確認すると、文献に書かれた特徴と合致しました。また、頭骨からはニホンオオカミの特徴も確認できたので、ニホンオオカミと同定して間違いはなさそうでした。小森さんは、またも埋もれていたニホンオオカミの標本を見出したことになります。

現在、このニホンオオカミの頭骨は神宮農業館で展示されていますので、伊勢神宮を参拝されるときにはぜひお立ち寄りください。そして、この頭骨も情報が埋もれないように論文にまとめておかなければと思っているところです。ニホンオオカミとの縁はもう少し続きそうです。

冒頭で紹介した論文は次のとおりです。「国立科学博物館所蔵ヤマイヌ剥製標本はニホンオオカミCanis lupushodophilax か?」国立科学博物館研究報告A類(動物学)50(1)〔論文はこちらから〕。また、小森さんが論文を出版するまでを追った児童書「まぼろしの動物ニホンオオカミ-小学生、なぞのはくせいの正体を追う」(Gakken)もご覧ください。

(文・こばやしさやか)

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