読み物コーナー

2021年11月25日更新

山階鳥研には一般の方からマスメディアまでさまざまなところからいろいろな問い合わせが寄せられます。2021年6月に日本中に「怪鳥」などとして報道されたミナミジサイチョウについて、メディアからの問い合わせ対応をした平岡広報コミュニケーションディレクターが、そのいきさつや、どんな考えで対応したかについてお話しします。

山階鳥研ニュース」2021年9月号に加筆修正

ミナミジサイチョウ騒動記
〜SGDsってあるでしょう?〜

広報コミュニケーションディレクター 平岡考

それは一本の電話から始まった

それは、2021年6月1日、職場にかかってきた1本の電話から始まりました。民放の情報番組から、山階鳥研の地元、手賀沼下流の耕地にいるというミナミジサイチョウを撮影すべく現地に向かっているが、その鳥についてコメントが欲しいというのです。これが翌日から3日間続いた、怒濤の、は大げさかもしれませんが、他のことはほとんど何もできないほどのメディア対応の始まりとは、その時は気づきませんでした。

写真 ミナミジサイチョウ

マムシを捕えたミナミジサイチョウ。怪異な相貌から、一社が報じると各社が後追いで続々と連絡してきた(2020年6月20日、我孫子市北新田、大杉哲郎氏/我孫子野鳥を守る会)

ミナミジサイチョウメモミナミジサイチョウというアフリカ産の鳥が職場の近隣の野外で1羽観察されているのを知ったのは、2020年5月中旬に、龍ケ崎市の一般の方から、画像付きで問い合わせを受けた時でした。この時は、種名をお知らせするとともに、自分でアフリカから飛んで来たのではなく飼育下から逃げたものだろうとお答えしました。

その後この鳥は、茨城県南部と千葉県北部を点々と移動して、折にふれ地元のバードウォッチャーのメーリングリストやツイッターなどで話題に上っていたのです。私は単純な興味から、職場への問い合わせの記録とあわせて、これらの観察情報も気づいた範囲でまとめていました。

山階鳥研の広報担当としては、この鳥が山階鳥研の仕事に直接関係しているわけではないですし、他に手持ちの、遅れている仕事もあることから、取材をお断りしてもよかったと思います。ですが、こういう話題が情報番組で取り上げられると、特段危害を与える生物ではないこともあり、「野外で自由に生きているのだから、なんとか元気に生きていってほしい」といった流れになりがちなことを危惧しました。この鳥はもともと日本の自然界にはいない鳥で、飼育していた人が不注意などで野外に逃がしてしまったものです。日本の自然環境のためにも不注意だったり無責任な飼育をすることはいけないことをきちんと押さえることが必要と考え、急な打診でしたがコメントしました。最終的に、初日の1件を含め4日間で、14のテレビ番組、3社の新聞社の取材を受けることになりました。

SDGsってあるでしょう?

各社の方とも、この鳥の特徴や生態、日本に自分で飛んで来たとは考えづらいこと等について聞くとそれなりに満足してしまい、私のいちばん伝えたい点には「食いつき」がよくありませんでした。熱弁を振るうのにも少し疲れましたが、あとのほうの取材では、「SDGsってあるでしょう?」というのが魔法の呪文であることに気づきました。

地域の生物のメンバーは何百万年も、互いに食べたり食べられたりして、命を与え合いながら、それでもどの生き物も絶滅しないようなバランスを発達させてきています。この何百万年の進化の歴史を共有したメンバーから成り立っているのが健全な、持続可能な生態系です。

そういう進化の歴史を共有してきたメンバーで成り立っている関係の中に、進化の歴史を共有していない生物が放り込まれると、関係ががたがたに壊れてしまう例があることが知られています(注)。これを防ごうというのが生物多様性の保全です。今、盛んに言われているSDGsの目標の中にもその考えが含まれているわけです。また、本来の生息環境でない場所に放り込まれることは個体にとって残酷なことなのです。

そういうことを説明して、もともと飼育下にいた個体は、個体の幸せのためにも、飼い主の方のためにも、地域の自然環境のためにも、大急ぎで飼育下に戻すのが望ましいことを強調しました。

オンエアされた番組のトーンはさまざまで、ここに書いた考えからするとがっかりするような番組づくりもありました。ですが、それなりに多くの番組で、飼育下に戻すことが望ましいというコメントが使われたのはありがたいことでした。ご存知のように、6月4日までには、この鳥が2019年11月に茨城県内のペットショップから逃げた個体であることが報道され、また6月5日にはペットショップの方達の手で捕獲されて飼育下に戻されたことが報道されました。

(文 ひらおか・たかし)

(注)もちろん1羽では繁殖できないので、生態系に大きな影響を与える可能性は大きくないかもしれません。しかし、どんな外来生物も最初野外に出たときは1個体だったり少数個体だったりしたわけで、1羽だから野外においておいてよいということにはならないと思います。むしろ大問題になっていない、たとえて言えば生物多様性の堤防にごく小さな穴があいているに過ぎない段階のうちに、穴が大きくなってどうしようもなくなってしまうことのないように、手を打っておくのが大切だと考えています。

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