読み物コーナー

2021年3月10日掲載

メキシコのグアダルーペ島生物圏保護区におけるコアホウドリの現状

J・C・エルナンデス・モントーヤ、F・メンデス・サンチェス、L・ルナ・メンドーサ、M・ラトフスキ・ロブレス、A・アギーレ・ムーニョス(島嶼生態系保全グループ(メキシコ ・バハカリフォルニア州エンセナーダ))

2020年3月15日、茨城県神栖(かみす)市波崎(はさき)の海岸で死体拾得されたコアホウドリは、メキシコ領の太平洋の島で足環を装着されたものでした。現地で標識調査に従事している団体の研究者にメキシコでのコアホウドリの現状と調査研究、保全活動について紹介していただきました。

【渡り鳥と足環】「鳥類標識調査 仕事の実際と近年の成果」ページの「コアホウドリがメキシコから飛来 足環付きの個体を茨城県で回収」も合わせてお読みください。

山階鳥研ニュース」2021年3月号より

コアホウドリ(Phoebastria immutabilis)は、北太平洋に広く分布する海鳥で、主にハワイ諸島で繁殖し、全世界の推定個体数は200万羽を越えます。メキシコ国内最大の集団繁殖地は、カリフォルニア半島沖合の太平洋上のグアダルーペ島にあり、その他、レビヤ・ヒヘド諸島のクラリオン島とサン・ベネディクト島にも小規模な集団繁殖地があります。

本種がメキシコで初めて観察されたのは、1970年で(Pitman 1985, Jennings 1987)、1983年に繁殖が始まって以来、順調に増加しています(Hernández-Montoya et al. 2014)(注1)。現在では繁殖地のグアダルーペ島と、属島のモロ・プリエト島とサパト島をあわせて、3,500羽が繁殖しています。

グアダルーペ島では、本種の集団繁殖地は、海抜80から600メートルにわたっています。採餌(さいじ)海域は、カリフォルニア沖を南下するカリフォルニア海流系と、カリフォルニア半島付近の沿岸湧昇流であり、これらは繁殖地に近いことから、時間的にも消費エネルギーの面からも、効率のよい採餌ができます(図1)。さらに、この海域は他の海域に比べて浮遊プラスチックが少なく、寒流のカリフォルニア海流のおかげでハリケーンの発生が少ないことも有利な点です。気候変動による海面の上昇がさしせまっていることを考えると、これらのメキシコ沿岸の島々が本種の保全のための重要な生息地となると考えられます。

図1

図1 GPS(全地球測位システム)で調査したグアダルーペ島のコアホウドリの2014〜2018年の繁殖期における採餌の飛行経路(36個体。青:オス、赤:メス)

2003年から、私たち島嶼(とうしょ)生態系保全グループ(GECI)は、グアダルーペ島の保全と総合的な生態系回復の活動に参加しました。優先度の高い課題として、この島でこれまでに6種の固有鳥種を絶滅に追い込んだノネコをはじめとする、侵略的外来種の管理を行ってきました。

この15年間、私たちは、グアダルーペ島のコアホウドリの個体数が指数関数的な増加を示していることを明らかにしてきました(図2)。しかも、この島のコアホウドリは、世界の集団繁殖地の中で、繁殖成功率がもっとも高い部類に属しています。高い繁殖成功率は、2003年に開始した、ノネコ管理プログラムによる捕食の減少と密接に関連しています。その後、2014年には島の南端の集団繁殖地を守るためのノネコ防止フェンスを設置し、2017年にはノネコ一掃プログラムを開始しました。2023年までには、グアダルーペ島はノネコの加害から開放されると考えています。

図2

図2 グアダルーペ島でのコアホウドリ個体数の経年的増加

2020年の繁殖期には、1,511つがいのコアホウドリが繁殖し、1,154羽のヒナがこの島から巣立ちしたことが確認されました。孵化率は、80.36%、巣立ち率は91.44%、そして繁殖成功率は73.32%でした。

現在、私たちはグアダルーペ島のコアホウドリの繁殖個体の80%、巣立ちヒナの100%に足環標識を装着しており、これまでに9千羽を越える個体に標識しています(図3)。これによって、個体群動態と分布についての知見が得られています。この一例が、2020年3月15日に茨城県神栖市波崎(北緯35度45分、東経140度49分)で回収されたコアホウドリです。この個体は、グアダルーペ島の属島サパト島(北緯28度51分、西経118度17分)で2018年2月に孵化し、3月に刻印6W4の橙色の色足環、5月に刻印GPE05830のある金属足環が装着され、6月に島から巣立ったものです。

図3

図3 グアダルーペ島の属島サパト島でのコアホウドリの標識調査

グアダルーペ島のコアホウドリの生息数は増加を続けており、島内に分布を広げています。この傾向が継続し、他方で、地球温暖化がハワイ諸島の本種の集団繁殖地に悪影響を及ぼすようなことがあると、50年、100年先という将来にはグアダルーペ島が本種の最大の繁殖地となることもありうるかもしれません。

(翻訳・平岡考)

(注1)Population status of Laysan Albatross (Phoebastria immutabilis) in Isla Guadalupe Biosphere Reserve, Mexico. Julio César Hernández-Montoya1,*, F. Mendez-Sanchez1, L. Luna-Mendoza1, M. Latofski-Robles1, A. Aguirre-Muñoz1.

1 Grupo de Ecología y Conservación de Islas, A.C., Moctezuma 836, Zona Centro, Ensenada, Baja California, México, C.P. 22800.
* Corresponding author: Julio C. Hernández-Montoya. <julio. montoya@islas.org.mx>

このページのトップへ