読み物コーナー

2014年7月17日掲載

国立科学博物館が5年計画で行って、このたび報告書がまとまった皇居の鳥類調査には、山階鳥研から所員が参加しました。参加した所員の一人小林専門員があらましを紹介します。

皇居調査に参加して

自然誌研究室 小林さやか

国立科学博物館が行った「皇居の生物相調査第二期」(2009〜2013年)の鳥類調査に2010年から参加しました。この調査は皇居内の鳥類相を把握することを目的とし、調査者が同じコースを歩いて観察した鳥を記録してゆくラインセンサスを毎月1回と、年に2回程の捕獲調査(注1)を行いました。皇居は東京都心を代表する緑地で、皇居の鳥類相を調べることは都市に生活する鳥類の現状を知ることと考えられます。皇居の鳥類相調査1965年以降、長期間にわたって継続して行われており、現在は国立科学博物館から引き継いで山階鳥類研究所が行っています。

変化する皇居の野鳥たち

皇居の中は周辺にビルが立ち並ぶのと対照に、昼でも暗いと感じる森とお堀の水辺があり、四季を通じて多様な鳥類が生息しています。2009年6月から2013年6月までの調査で83種が確認されました。一年を通じて最もよく観察されたのが、ヒヨドリ、ヤマガラ、シジュウカラ、メジロ、ハシブトガラスで、観察される種数は冬期に増え、夏期、いわゆる野鳥の繁殖の時期に少なくなります。秋や春には渡りの際に通過していく野鳥も観察されます。

今回の調査では、エナガとオオタカの繁殖が確認されました。オオタカは巣が観察され、3羽のヒナが巣立ちました。また、エナガは巣の確認こそなかったものの、繁殖時期の捕獲調査で巣立ち後直ぐの幼鳥が捕獲され、皇居または周辺で繁殖したものと考えられました。過去の調査でエナガは冬期に観察されていた種類でしたが、留鳥として定着しつつあります。このほか、決定的な繁殖の確認はできなかったものの、これまで繁殖時期に確認されていなかったバンやキビタキが観察されていて、今後の動向が注目されます。黒田清子さんのご研究でカワセミの繁殖も確認されており、野鳥の繁殖を支える皇居の自然の豊かさを垣間見ることができました。

皇居で確認されたオオタカの巣。画面中央の白いのがヒナ(2013年6月)。(写真提供:国立科学博物館)

皇居は野鳥のオアシス

また、皇居は渡り鳥が立ち寄る場所としても重要な場所になっています。例えば、秋の捕獲調査ではたくさんのキビタキの幼鳥が捕獲されて、渡りの中継地として皇居を利用しているようです。また、都心では珍しいと思われる、サンショウクイやサンコウチョウ、エゾムシクイ、マミチャジナイが確認されました。2013年の冬期に移入種のソウシチョウが群れで観察されるなど、皇居は都市の野鳥の変化も反映しています。今回、国立科学博物館が行った調査では、第一期の皇居の生物相調査とそれに続くモニタリング調査(2000〜2005年)に比べて種数が微増しているとの結果が得られました。これは皇居が野鳥にとって重要な生息地であることを示す一方、都市部で野鳥の生息地である緑地が減少し、大型緑地の皇居に集中しているのかもしれません。今後どのように鳥類相が変化していくのか、これからの調査にも注目してゆきたいと思います。

今回の皇居の鳥類相調査の結果は、国立科学博物館専報第50号(注2)に掲載されています。詳しくお知りになりたい方はこちらをご覧ください。

(文 こばやし・さやか)

「山階鳥研ニュース」2013年1月号より

(注1) 移動や寿命などの生態を知るために行われている鳥類標識調査を実施しました。捕獲した鳥に番号付きの足環をつけて放鳥するもので、カスミ網を使用することで観察では確認しづらい潜行性の種などの生息状況を知ることができます。

(注2) 西海 功・黒田清子・小林さやか・森さやか・岩見恭子・柿澤亮三・森岡弘之「皇居の鳥類相(2009年6月―2013年6月)」『国立科学博物館専報 』50号541-557頁。

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