読み物コーナー

2019年9月30日掲載

山階鳥研での研究活動と今後の抱負

兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科准教授 出口智広

アホウドリの小笠原再導入に携わってきた出口智広・前保全研究室長は2019年3月末で山階鳥研を退職し、現在は兵庫県立大学大学院で研究と教育に携わっています。山階鳥研での活動を振り返り、また新天地でどのようなことを目指しているかについて寄稿してもらいました。

山階鳥研ニュース」2019年9月号より

今から15年前、私が山階鳥研に入職したのは、「あんた小笠原でアホウドリの仕事をしてみねえか」という、当時所長だった山岸先生のお誘いからでした。小笠原諸島は、私が研究者という生き方を初めて教わった場所だったため、そこで恩返しがしたいという思いから、山岸先生のお誘いを受けることに決めました。

それから間もなく、日本・アメリカ・カナダ・オーストラリアの専門家からなるアホウドリ回復チームのメンバーに加わり、小笠原諸島の繁殖地復活の取り組みに従事してきました。この活動の趣旨は、アホウドリが高い生地回帰性()を持つことに着目して、噴火の危険性の高い現繁殖地の伊豆諸島鳥島から、安全な小笠原諸島聟島(むこじま)へ若齢のヒナを運び、野外で人工飼育し、巣立たせることにより、育った場所へ帰還した個体を核とする繁殖個体群の形成を促すことです。私は、アホウドリが小笠原村の財産として受け入れられる下地を作るべく、地域住民との恊働によってこの活動を進めてきました。また、この活動が他の鳥類の繁殖地形成にも応用できるように、汎用性の高い手法の確立に注力してきました(写真1)。小笠原諸島でのアホウドリの活動は、世界的に例のない先駆的かつ大規模なプロジェクトであったにもかかわらず、私は、社会人となって最初の職務で現場責任者を任されるという、極めて希有(けう)な機会に恵まれました。そして、この職務に長年取り組んだ経験から、自然環境の保全の実現には、活動の長期的な継続が何よりも大切であり、そのためには地域社会の活性化と後進の育成が不可欠なことを強く実感するようになりました。

写真1 ニュージーランドのロイヤルアルバトロスセンターで小笠原の取り組みを紹介する武田俊介氏。武田氏は小笠原の活動の中心的存在である。

このような経緯から、新しい職場では、自身の体験やそこから得た教訓を伝えていくことで、野外調査や保全活動をリードする人材を輩出することを、人生の次の目標にしたいと考えています。小笠原での取り組みは、学術的には再導入と呼ばれていますが、対象を生物一般に広げると、最終目標の設定の曖昧(あいまい)さや、最適な保全手法の検討不足から、事後モニタリングの結果公表が少なく、成果の評価が後付けになることが多いため、科学としての信頼性が問われてきた分野です。そこで、今後の主な対象であるコウノトリ(写真2)については、学術的な信頼に応えられる研究成果を学生とともに目指したいと考えています。

写真2 但馬地方のコウノトリの営巣地とその周辺環境。

最後に、私の在職する大学院は、地形、生態系、人間社会の連関を地域と言う空間スケールの中で捉えることを目指しています。社会人の方も積極的に受け入れていますので、学生募集の際には皆様のご応募お待ちしております。

(注)若齢時に出生地を離れても成熟齢になると再びこの場所に戻り繁殖しようとする習性。

(写真・文 でぐち・ともひろ)

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