2026年9月14日掲載
山階鳥類研究所 自然誌・保全研究ディレクター 水田 拓
環境省は2026年6月30日、アマミヤマシギとオオトラツグミについて、全国で初となる保護増殖事業の完了を宣言しました。保護増殖事業とは、種の保存法という法律で指定されている国内希少野生動植物種のうち、とくに必要と考えられる種に対して国が実施する保護事業です。これが完了したということは、簡単に言えば、対象種の保護の必要性が低下したことを意味しています。これは2024年のマングース根絶に並ぶ、奄美大島の自然保護における偉大な到達点だと言えるでしょう。私は2006年からこれらの保護増殖事業に携わってきたため、今回の完了は特別に感慨深く思っています。
では、なぜアマミヤマシギとオオトラツグミで「保護の必要性が低下した」のでしょうか。それは、2種とも個体数が増加し分布域も広がって、かつてに比べると絶滅の危険性が低くなったからです。その要因としては、森林伐採が減少し、また国立公園や世界自然遺産により生息環境が守られるようになったこと、それにマングースが根絶されたことがあげられます。つまり、保護増殖事業とは別に進められた取り組みが、これらの種の保護に役立ったということになります。
もちろん、だからといって保護増殖事業自体に意味がなかったわけではありません。事業では、対象種の基礎的な生態を調べることで、森林伐採とマングースがたしかに負の影響を与えていることを示すとともに、モニタリングの継続や個体数の推定により、両種とも個体群が回復していることを明らかにしました。そのような科学的根拠を示したことが、事業完了の判断につながったと言えます。このような成果を見ると、逆説的ですが、保護増殖事業の目的は、保護増殖事業を終わらせるためのデータを集めることであったと言えるかもしれません。


上)アマミヤマシギ 下)オオトラツグミ
この保護増殖事業完了から学ぶべき教訓があるとすれば、ひとつは「きちんと対処すれば絶滅危惧種は回復する」ということです。今回の2種については、林業の不振で伐採が減少し生息環境が改善したり、国立公園指定や世界自然遺産登録といった目標が達成されたり、外来生物法の施行によりマングース防除事業が始まったりといった追い風があったことも幸運でしたが、適切に対処することで個体群が回復したことを示せたのは大きな成果だと思います。もうひとつは、「保護増殖事業完了の道筋ができた」ことです。時間をかけて検討し道筋を整理したことは、今後ほかの保護増殖事業を完了させる際のよいお手本になるでしょう。さらに、根本的なこととして、保護を進めるためにはやはり基礎研究が欠かせないことを示した点も強調しておきたいと思います。
もう少し視野を広げると、マングース対策がこれほど効果的なら、沖縄島でも全域からマングースを根絶させる取り組みを開始するべきではないかという考えに至ります。沖縄島からマングースが根絶されれば、ヤンバルクイナやノグチゲラの保護増殖事業も完了が視野に入ってくるでしょう。逆に、根絶されないかぎりこれらの種は永遠に絶滅危惧種からはずれず、保護増殖事業も完了しないことは認識しておくべきだと思います。また、せっかく丁寧に作った完了の道筋をほかの保護増殖事業にも当てはめてみて、事業の進め方に問題がないか検討することも必要でしょう。
アマミヤマシギとオオトラツグミの保護増殖事業が完了したのはたいへん意義のあることです。しかしそれで完結させるのではなく、これをほかの地域の希少種保護を考えるきっかけとして生かすことこそが、今回の事業完了の重要な意義ではないかと思います。
(文・写真 みずた・たく)