2026年7月22日掲載
研究員 齋藤武馬
皆様はムシクイ類という全身オリーブ色の地味な小鳥の仲間をご存じでしょうか?ユーラシア大陸を中心に分布し、昆虫食で、全世界で77種いるといわれています。イイジマムシクイ Phylloscopous ijimae は、スズメ目ムシクイ科の鳥で、1887年に伊豆諸島の三宅島で採取された標本をもとに、米国の分類学者 Stejneger によって新種記載されました。この鳥は、伊豆諸島の複数の島々に繁殖分布しますが、1988年に鹿児島県のトカラ列島、中之島でも繁殖していることが確認されました【図1】 注1)。そのため、長らくイイジマムシクイの繁殖分布は伊豆諸島とトカラ列島に隔離分布するとされてきました(ちなみに同じような分布をする鳥にアカコッコ Turdus celaenops がいます)。しかし、この2つの島嶼域は、直線距離にして約1,000kmも離れています。はたして本当に同じ種の同じ個体群なのでしょうか?

図1 今回の発見以前のイイジマムシクイの繁殖分布図(地理院地図を加工して作成)
この疑問は、これまでも研究者の間で興味をもたれてきたテーマだったのですが、ついにその謎が解明されました。筆者は、スウェーデン、中華人民共和国の大学・研究機関、森林総合研究所との共同研究で、トカラ列島の個体群はイイジマムシクイではなく、独立種でしかも未記載の新種であることを発見しました 注2)。この成果は、国内において森林総合研究所の関伸一博士とともに、プレスリリースを行いました 注3)。
その研究内容を説明しますと、まずDNA解析により、伊豆諸島とトカラ列島個体群の遺伝的な差異を調べました。その結果、両個体群間の分岐年代は古く、約280万〜320万年前に分かれたと推定されました【図2】。さらに、両個体群の形態の差異を調べてみると、トカラ個体群は伊豆個体群よりも全般的に計測値が小さく、ふしょ長(脚の長さ)と全頭長(嘴と頭部を合わせた長さ)が有意に小さいことがわかりました。また、音声の違いでは、さえずりにおいて両個体群間で有意な違いが認められ、トカラ個体群のほうが周波数が低く、テンポが速いさえずりをもつことがわかりました【図3】。

図2 伊豆個体群とトカラ個体群との系統関係(ミトコンドリアDNAチトクロムb領域の分子系統樹に基づく)

図3 トカラ個体群のさえずり(左)と
伊豆個体群のさえずり(右)
そこで筆者らの研究グループは、トカラ個体群の鳥を、学名Phylloscopus tokaraensis、英名Tokara Leaf Warbler、和名を「トカラムシクイ」とする新種記載を行いました【図4】。この分類の根拠となったタイプ標本は、現在当研究所の収蔵庫に保存されています【図5】。

図4 トカラムシクイ(雄成鳥;2017年6月10日トカラ列島中之島捕獲)

図5 タイプ標本(雄成鳥;標本番号YIO-76774山階鳥類研究所蔵)
トカラムシクイはトカラ列島のいくつかの島々に分布しますが、確実に繁殖が確認されているのは中之島のみで、生息地が狭いため個体数も多くないと推測されます。そのため、絶滅の危険性が高い種といえます。イイジマムシクイは現在、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類(EN)に選定されているので、トカラムシクイも今後、同リストにより絶滅危惧のランク付けを検討する必要があります。近年、同列島の島々は、松枯れやノヤギによる森林衰退が進行している地域があり、トカラムシクイの生息環境の悪化が懸念されるので、その進行を食い止める環境保全策が必要です。さらにニホンイタチなどの外来捕食者の脅威もあります。そのため、個体数推定のためのモニタリング調査を継続的に行う必要があります。
このトカラムシクイ、外見はイイジマムシクイにそっくりなので、野外で観察しても、その識別は困難だと思われます。観察中にはDNA解析ができない以上、さえずりによる識別が有効ですが、聞き慣れれば識別可能と思います。しかし、繁殖分布域はとても離れているので、渡り途中でないかぎり、同時に観察することはないでしょう。世界的にみても希少なこの2種について、ぜひご興味をもっていただき、その保全にも関心を寄せていただけたらと思います。
注1:Higuchi H, Kawaji N(1989)Ijima’s willow warbler Phylloscopus ijimae of the Tokara Islands, a new breeding locality, in southwest Japan. Bull Biogeogr Soc Jpn 44: 11−15.
注2:Saitoh T, Shipilina D et al.(2026) Discovering and protecting cryptic biodiversity: A case study of a previously undescribed, vulnerable bird species in Japan, PNAS Nexus 5(3): pgag037, DOI: https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgag037
注3:山階鳥類研究所・森林総合研究所(2026)45年ぶりに鳥類の新種発見!?トカラ列島で独自に進化を遂げた希少種トカラムシクイ. 山階鳥類研究所, 我孫子. https://www.yamashina.or.jp/hp/p_release/images/20260318_prelease.pdf
(文 さいとう・たけま)