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所員エッセー

2023年12月14日掲載

ラジオ番組『朝の小鳥』を引き継いで

『朝の小鳥』は毎週日曜日、朝5時15分から5分間、さわやかなナレーションとともに鳥のさえずりを届ける文化放送のラジオ番組です。6月から当番組を担当することになった岡村特任専門員が制作秘話を含めて番組の紹介をします。

特任専門員 岡村正章

『朝の小鳥』の歴史とスタイル

文化放送における最長寿番組『朝の小鳥』は、今年70周年を迎えました。初代の「収録・構成」担当者は故・蒲谷鶴彦(かばや つるひこ)さん。限られた紙幅では詳述できませんが、番組への功績はもちろん、鳥の声を生涯録り続けたフィールド・レコーディストとしても世界に類例のない超弩(ど)級の「レジェンド」です。当時は日本の放送黎明期。野山の鳥の声を家に居ながら聴けることが珍しく、娯楽だった時代です。ラジオから流れるさえずりで識別を学んだという往年の野鳥ファンも多く、番組が「声の図鑑」の役割を果たしていました。

蒲谷さんからバトンを受けた二代目は松田道生(まつだ みちお)さん。野鳥の魅力を世に広めてこられた、斯(し)界の大伝道師です。ハンディレコーダーの機動性と簡便さを活用し、精力的な取材をなさいました。ご著書多数、初心者にもやさしく親しみやすい解説は周知のとおりです。

そして今年6月、私が番組を引き継ぎました。本業の合間に各地へ出かけ鳥の声を収録、これを編集して音源を作り、放送原稿を書いています。ナレーションを担当するのは局アナの鈴木純子(すずき じゅんこ)さん。ディレクターは月〜金のワイド番組も手がける敏腕にしてらつ腕、門馬史織(もんま しおり)さんです。

『朝の小鳥』には70年引き継がれてきたテーマ曲と伝統の定型があります。オープニングとエンディングには決まった挨拶とフレーズが配され、テーマ音楽の入るタイミングや、鳥の声をバックに当該種の形態・生態を紹介する進行に一定のスタイルがあるのです。70年間といえば日本の民放ラジオ史とほぼ等しく、それだけ続いた「型」となればもはや風格ある様式美です。

写真:朝の小鳥収録風景
写真:朝の小鳥収録風景2

(上)調整卓に門馬ディレクター。ブースの中に鈴木アナ (下)この日の収録は、生放送対応スタジオにて

音作りの工夫

ラジオですから少し音の話をしましょう。実は、鳥のさえずりを流す番組といえども、鳥が最前面に聴こえるように作るわけにはいきません。「ナレーションが明確に聴き取れる」ことが放送音響の大原則だからです。つまり声とさえずりがぶつからぬよう留意する必要があります。ステレオでの聴取を想定するなら、真ん中にナレーションがはっきり聴こえて、そのまわりを鳥の声が包み込む音像定位(注1)が理想です。

鈴木アナの声と語り口は素晴らしく魅力的です。明瞭でいて高音域が張りすぎず、150Hzあたりの低域から中域へのポルタメント(注2)がふくよかに響きます。重心が低めで、穏やかなトーンと抑揚に聴き手は安心感を覚えることでしょう。この心地よいナレーションを取り囲むように響く鳥の声と、フィールドの奥行きや広がりが感じられる環境音…そんな音作りを目指しています。

鳥の声をこれからも

この十年で放送のあり方は激変しました。動画投稿サイトにはテレビの自然番組をしのぐ高画質動画があふれ、音声配信では「癒し系」チャンネルに多くのファンがついています。制作業界は、もはやプロ/アマの区別が意味をなさぬほど裾野を広げて急拡大、関連機器市場も空前の活況です。さらに、膨大なコンテンツの海から「好み」を探し出し楽しむ主体的な聴き手たち。彼らの嗜好も日々進化し、多様化しています。ラジオの聴かれ方はこれからますます変わっていくでしょう。

ひとつの民放局が戦後の日本に70年絶やすことなく送り続けてきたのが鳥声(ちょうせい)番組だったことは、なんとも暗示的です。鳥の声が消えた世界に、私たちの未来はないのですから。

(注1)構成音の配置
(注2)高さが異なる音への連続的推移

(写真・文 おかむら・まさあき)

『朝の小鳥』
レギュラー放送 毎週日曜日午前5時15分〜20分
Podcast配信 毎週日曜日午前7時に配信
朝の小鳥QRコード 番組公式サイトQRコード (リンクはこちらから

「山階鳥研ニュース」 2023年11月号より

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