読み物コーナー

2018年5月14日掲載

外来生物という単語はメディアでも頻繁に耳にするようになりましたが、日本の鳥類ではどのような種があって、どのような問題点があるのでしょうか?従来から外来鳥類の研究に携わり、昨年、外来鳥類ヒゲガビチョウの侵入と分布拡大について論文を発表した天野一葉さんに、外来鳥類の問題点や私たちにできることについて解説していただきました。

ヒゲガビチョウ 広がる外来鳥類

滋賀県立琵琶湖博物館 特別研究員 天野一葉

外来鳥類の問題とは

外来種とは、本来の生息地から、人間の活動によって運ばれてきた生き物のことです。人間が意図的につれてくる場合と、船にまぎれてくるなど、人間が知らずに移動させてしまう場合があります。野生化の原因は、愛玩鳥の放鳥や飼育施設からの逸出(いっしゅつ)、コウライキジやコジュケイなど狩猟のために放されたもの、アイガモなどの農業害虫や雑草駆除のための放鳥など様々です。

日本では現在、40種以上の外来鳥類の繁殖(または繁殖の可能性が高い)記録があります。なぜ外来種が増えると問題なのでしょうか? 外来種は、開発による「生息地の消失」とならんで生物多様性に重大な影響を与えると考えられています。外来鳥類では、捕食、托卵(他個体の巣に自分の卵を産んで育てさせる)、病気の運搬、交雑、在来種との競争や農業被害が問題になっています。もともとハワイ諸島には鳥マラリアはなかったのですが、外来鳥類が持っていた鳥マラリア原虫を蚊が媒介したことで、多くの固有種(その地域にしかいない種)の鳥類が激減しています。交雑(遺伝子の撹乱(かくらん))は、近縁の種や亜種が持ち込まれると起こる可能性があります。アヒル(家禽化されたマガモ。さらにマガモやカルガモと交配したものも)とカルガモのように、近縁の家禽と野生種が交雑したり、近縁な北米のカナダガンと日本のシジュウカラガンが交雑したりしています(注1)。交雑によって雑種ばかりになったり、地域の遺伝的な違いが均一になったりすると、生物多様性が損なわれます。

写真1 香川県で捕獲されたヒゲガビチョウ

国内移入種による問題点

国内移入種という言葉をご存知でしょうか?国内においても、もともとその種や亜種がいなかった地域に、人為的に生き物を移動させると国内移入種になります。外来種と言うと国外から運ばれてきたものだけと考えがちですが、これも外来種のうちに含まれます。日本の固有種であるヤマドリは、本州・四国・九州にのみ生息しており、羽色と尾羽の形状の違いから5亜種に分けられています。たとえば九州の南部には、日本鳥学会の学術雑誌の表紙にもなっているコシジロヤマドリという亜種がいます。地域によって微妙に異なるヤマドリがいることで、種全体の多様性が維持されていると考えられます。しかし、それまで生息していなかった北海道や日本各地で1970年代以降に狩猟のため放鳥され、地域にもともといたヤマドリと交雑が繰り返されて地域の特徴が失われている恐れがあります。

写真2 外来鳥類ソウシチョウ

特定外来生物になったヒゲガビチョウ

ヒゲガビチョウ(写真1)は、今年の1月からシリアカヒヨドリとともに特定外来生物に指定されました(注2)。ガビチョウ類3種(ガビチョウ、カオグロガビチョウ、カオジロガビチョウ)、ソウシチョウ(写真2)、カナダガンに続く指定です。ヒゲガビチョウは、最初の観察記録が1998年に高知県であり、愛媛県でも定着しており、最近は香川県でも観察され、生息地の拡大が危惧されています。ヒゲガビチョウは中国〜インドが原産で、日本へは愛玩鳥の飼育個体が逃げ出したと考えられています。筆者が香川県で外来種のソウシチョウの捕獲調査をしていたところ、ヒゲガビチョウも捕獲され、香川県では初の記録であったため、山階鳥類学雑誌にて報告しました(天野 2017(注3))。捕獲場所は大高見峰(おおたかみぼう)周辺の低地の森林(写真3)で、近くにヤダケの竹藪がありました。5羽がほぼ同時に捕まったので、群れで行動していたようです。羽の色から主に中国に分布する亜種ヒガシヒゲガビチョウ(最近の研究では別種に分けられた)が日本に移入されたと考えています。ガビチョウ類やソウシチョウは同じチメドリ科に属していて、中国原産で森林に生息するところが似ています。気候や森林環境が原産地と日本で似ていることや、群れで行動する、雑食性、営巣場所が森林下層部の藪で、樹洞に巣をつくる鳥のように少ない巣場所を在来種と争う必要がないことなども定着に有利に働いたのではないかと考えています。

私たちにできること

外来鳥類は一度定着すると、根絶は難しくなります。世界中で、多くの鳥たちが取引されていますが、まずは日本に入ってくる数を減らす「水際での阻止」が重要といわれています。外国の美しい鳥に魅了される人は多いと思いますが、希少な種の飼育を望む人が増えると、現地での乱獲につながり、その結果として、その種の絶滅や地域の生態系の破壊につながるかもしれません。また、逆に日本に定着して個体数を増加させると、日本の在来種と生態系を脅かす外来種となり、駆除の対象になる可能性もあります。いずれにしても鳥や地域の生態系にとっても不幸なことです。希少な鳥は現地まで見に行くのが難しくても、テレビや図鑑でみるなどして、その鳥の生態や厳しい生息状況を知って、それらの保護を望む人が増えるとよいなと思います。

迷鳥として自然に渡ってきた鳥もいるため、外来種かどうか区別が難しいことも多いですが、聞いたことのない声や見たことのない種を見かけたとき、あれ?と思う感覚は大事だと思います。疑問に思うことがあったら地域の自然系博物館に問いあわせたり、生物の観察会に参加したりして、身近にいる生き物の暮らしや季節による移りかわりを観察し てみてはいかがでしょうか。外来鳥類をどのように管理していくのがよいのかという議論は始まったばかりですが、みんなで地域の自然をよく知り、見守っていくことは、そのような議論や地域の合意をつくっていく上での土台になります。

写真3 ヒゲガビチョウの生息環境(香川県)
竹やぶのある低標高の森林

(文・写真 あまの・ひとは)

山階鳥研ニュース」2018年5月号より

(注1)日本で定着していたカナダガンの個体は2014年までに防除されましたが、今後また定着しないように監視は必要です。
(注2)特定外来生物は、外来生物法で定められ、外来生物(海外起源の外来種)のうち、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼすおそれがあるものの中から指定されます。
(注3)天野一葉.2017.ヒガシヒゲガビチョウ Garrulax cinereicepsの四国への侵入と分布拡大.山階鳥類学雑誌 49:1-7.

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