山階鳥類研究所 アホウドリのページアホウドリ 復活への展望

アホウドリ最新ニュース

2022年5月12日掲載
2022年10月3日追記

広報誌「山階鳥研NEWS」2022年5月号と7月号の記事を合わせてこのページに転載しました。

2022年5月号「聟島のアホウドリ 新繁殖地で1羽のヒナが孵化 1羽は「第3世代」」
2022年7月号「聟島の2羽が順調に成長、鳥島の総数は7,000羽越え」

聟島のアホウドリ
新繁殖地で1羽のヒナが孵化 1羽は「第3世代」

小笠原諸島聟島におけるアホウドリの新繁殖地形成事業(注)において、東京都小笠原支庁からの委託で山階鳥研が実施しているモニタリング調査の結果、2021〜22年の繁殖期には、2羽のヒナが孵化し、そのうちの1羽は、聟島で人工飼育されて巣立った個体を第1世代とした時の孫に当たる第3世代でした。第3世代にあたるヒナの誕生は初めてであり、1シーズンに複数のヒナが孵化したのも初めてのことです。

「山階鳥研NEWS 2022年5月(301)号」より

2022年1月8日から16日に油田(ゆた)照秋 研究員ほかの現地調査チームが聟島(むこじま)に渡り、飛来状況等のモニタリングを行いました。その結果、2016年に、足環番号Y01(オス、愛称:イチロー)の最初の子として生まれた個体(オス、足環番号Y75、愛称: みらい) が帰還し、別の野生個体(足環なし)とつがいになって営巣していた巣でヒナが孵化したことが確認されました。イチローは、2008年から2012年まで伊豆諸島鳥島から移送して人工飼育した個体のうち、最初の2008年に巣立った個体です。今回生まれたヒナは移送飼育個体の孫に当たる、第3世代としては初めての個体です。

写真:聟島アホウドリ
写真:聟島のヒナ

聟島で確認されたアホウドリの親(左:足環なし、右:Y75 <愛称:みらい>)とヒナ(第3 世代、矢印)(2022年1月10日、撮影:山階鳥研、提供:東京都)。下の写真は同じヒナ(2022年3月9日、撮影:南俊夫氏、提供:東京都)

また同時に、イチローと、今シーズン新しくつがい相手になった2009年移送飼育個体(メス、足環番号Y11)の巣にも、ヒナが孵化したことが確認されました。新繁殖地である聟島で複数のヒナが誕生したのは事業開始以降初めてのことです。

写真:聟島のアホウドリ

聟島でヒナに給餌するアホウドリの親(左:Y01 <愛称:イチロー>、右:Y11)とヒナ(矢印)(2022 年1 月14 日、撮影:山階鳥研、提供:東京都)

人の手がかかっていないアホウドリのつがいからヒナが誕生したことは、個体群が自立し、今後自然に個体数が増加していくことを期待させます。また、アホウドリは通常大規模な集団繁殖地(コロニー)を作って営巣する習性を持ちます。聟島で複数のヒナが誕生したことは、第3世代の誕生に合わせ新繁殖地形成に向けて大きな進展となりました。

2月、3月のモニタリングでも2羽のヒナは順調に成長していることが確認され、3月の調査時には個体識別のための足環が装着されました。ヒナは5月初旬頃に巣立つことが予想されます。無事に巣立って、また数年後聟島に戻って繁殖してくれることを期待しています。

(注)この事業は、山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金等の支援を得て、国の特別天然記念物であり絶滅危惧種であるアホウドリの保全のため、小笠原諸島聟島に新しい繁殖地を形成する目的でおこなっています。伊豆諸島鳥島で生まれたアホウドリのヒナを移送(2008~2012年)して人工飼育により巣立たせ、音声とデコイによる誘引(2007年~)をし、その後の動向のモニタリング調査を実施しているものです。

聟島の2羽が順調に成長

油田照秋 研究員は4月に小笠原諸島聟島で観察を行い、今年初めに孵化した2羽のヒナ(「山階鳥研ニュース」2022年5月号参照)が順調に育っていることを確認しました。

「山階鳥研NEWS 2022年7月(302)号」より

写真:みらいとヒナY81

2016 年生まれの個体(オス、足環番号Y75、愛称:みらい、写真左)とその子で今年生まれたヒナ(足環番号Y81)。みらいは、2008年から2012 年まで伊豆諸島鳥島から移送して人工飼育した個体のうち、最初の2008年に巣立った個体(オス、足環番号Y01, 愛称: イチロー)の子。右のヒナは移送飼育個体の孫に当たる、第3世代としては初めての個体となる(2022年4月23日撮影、東京都小笠原支庁提供)。

※この事業は、小笠原諸島聟島にアホウドリの新しい繁殖地を形成する目的で、伊豆諸島鳥島で生まれたアホウドリのヒナを聟島に移送(2002~12年)して人工飼育により巣立たせ、その後の動向を継続してモニタリングしているものです。山階鳥研が、環境省、東京都、米国魚類野生生物局、三井物産環境基金、公益信託サントリー世界愛鳥基金等の支援を得て実施しています。

鳥島の総数は7,000羽越え

2022年2〜3月にかけて、伊豆諸島鳥島のアホウドリの調査を行った結果、鳥島全体でのアホウドリのヒナ数は999羽となり、鳥島のアホウドリ個体群の総数はおおむね7,000羽以上まで回復したと判断されました。

「山階鳥研NEWS 2022年7月(302)号」より

鳥島の調査は、2月19日から3月8日まで富田直樹 研究員ほかの現地調査チームが実施しました。この結果、「デコイ作戦」として山階鳥研が1992年から2006年まで誘致を行ってアホウドリの新たな繁殖地を確立することに成功した初寝崎(はつねざき)で、475羽のヒナを確認しました。また、従来の繁殖地である燕崎では420羽、燕崎から崖を登った場所で、近年繁殖が始まった子持山では104羽が確認されました。それぞれ、前年比、20.3%増、37.3%増、25.3%増で、総数は27.4%増でした。

本種の鳥島個体群の総個体数を今回の調査結果をもとに推計したところ、おおむね7,000羽以上まで回復したと判断できました。

近年、北海道大学総合博物館の江田真毅(まさき) 准教授らと山階鳥研の研究グループの共同研究で、アホウドリに遺伝的、生態的、形態的な差異のある「アホウドリ」と「センカクアホウドリ」の2種を認めるべきであることが分かりました(本紙2021年3月号参照)。「センカクアホウドリ」は鳥島および聟島でも確認されていますが数は非常に少なく、主な繁殖地である尖閣諸島は2001年を最後に現地調査が行われていません。現地調査に加え、鳥島、聟島両島でのモニタリング調査が今後更に重要になります。

※この調査は、環境省の請負事業のほか経団連自然保護基金や科学研究費補助金(21K05641)などの支援を受けて実施しました。

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