5.2.4 鳩舎による個体数の制御


 公園・神社・仏閣では給餌することによってドバトの個体数が増え、参拝客の衣服、文化財を糞で汚すというような糞害が発生して来る。しかし、これらの場所ではドバトを全く追放するわけにゆかず、またドバトの餌の売り上げが収入の一部となっている所もあり、個体数を一定のレベルで維持して行くため鳩舎法を採用し効果を上げている所が多い。

 鳩舎法は軌道にのるまでに2、3年は必要であり、現在成功しているところも初期には鳩舎に定着させることに失敗している所が多かったようである。またすでに定着した伝書鳩でさえ分散例が報告されており(例えば筆者らは靖国神社の足環のついた白鳩を1979年1月9日に早稲田大学近くの交通公園で発見している。これは靖国神社から直線にして3.7kmほどである)、必ずしも全個体を定着させるということは成功しないようである。鳩舎に定着させるには鳩舎に必要な羽数の鳩を収容し、繁殖させるとヒナの段階になった所で放しても親鳥はヒナの給餌のために帰巣することを利用する。

 ドバトは餌場に降りる場合、餌場を見渡せる止まり場に一旦止まる習性がある。そこで、鳩舎と餌場の間に止まり場を新たに作るか、既製の、糞がかかっても問題がなくよごれを容易に洗い流せるような建造物をまず選定し、その近くに餌場を設置する。餌場の場所はかこい等で限定し、他の場所では給餌しないようにする。

 糞は止まり場、鳩舎にほとんど落とされ、他に糞害が発生するということはほとんどなくなる。また鳩舎内で産卵された卵を定期的に処分し、擬卵にとりかえて繁殖をコントロールすることもできる。さらに餌を販売する場合は給餌の餌を、糞量が少なく水で容易に洗い流せるような粘着性の少ないものに改める必要がある。

 筆者らの給与試験によると、糞量の一番多い餌はアサの実、大豆の順で、少ないものはマイロ、トウモロコシ、青米、小麦の順であった(表5.1)。可溶性無窒素物(NFE)含量が多いものは糞量が少ない傾向が認められる。
 糞の粘着性は乾燥糞の硬度を目安とした。その結果乾燥糞の硬度が飛びぬけて高かったものは大豆で、アサの実は低かった(表5.2)。従って大豆の給餌は糞量の点からも、粘着性の点からも問題があると考えられ、現在大豆を給餌している所は、マイロ、トウモロコシ、青米、小麦等に切り変える必要があろう。特にマイロは価格面からも切り変えのメリットが大きいと思われる。


表5.1 各種飼料によるドバト糞量の変化
給与飼料名
採食量に対する糞量の割合(%)
糞量/採食量
g/羽・日
飼料中のNFE
1羽1日の
平均摂取
カロリー
Cal
平均体重増減

g/羽・日

1回目
(3日)
2回目
(4日)
平均
(7日)
トウモロコシ 15.3 16.0 15.7 3.94/25.11 71.0 80.5 +1.94
ブロイラー用飼料 (ペレット)   32.4 53.1 45.2 11.34/25.09 55.6 79.2 -0.14
小麦 22.1 21.4 21.8 4.26/19.55 70.8 58.4 -1.97
大豆 42.8 49.3 47.2 8.93/18.93 26.7 74.2 -0.93
マイロ 17.9 12.6 15.0 3.86/25.79 71.3 81.1 -0.55
青米 13.3 18.3 16.0 3.79/23.71 72.5 76.9 -0.64
アサの実 54.8 54.0 54.3 15.25/27.83 7.3 102.4 +1.91
産卵鶏用飼料
(マッシュ)
22.7 24.7 23.8 4.07/17.11 54.4 52.8 -0.89


表5.2 ドバト乾燥糞の硬度 木屋式硬度計1600-E(0-50kg) 単位kg
給与飼料名
1
2
3
平均
トウモロコシ
 0.5以下
 0.5以下
 2.8
 1.3以下
ブロイラー用飼料(ペレット)
 1.7
 3.5
 1.5
 2.2
小麦
 3.3
 1.5
 2.2
 2.3
大豆
15.5
23.5
22.5
20.5
マイロ
 2.6
 0.5以下
 1.3
 1.5以下
青米
 0.5以下
 1.0
 0.5以下
 0.7以下
アサの実
 0.5以下
 0.5以下
 0.5以下
 0.5以下
産卵鶏用飼料(マッシュ)
 0.5以下
 2.2
 2.0
 1.6以下


 鳩舎法の応用は神社・仏閣のみならず、工業地帯、畑地等ドバトの被害にあっている場所から他の地域へ誘致し、鳩舎管理を行って被害を少なくすることも考えられる。以下に神社・仏閣・公園のドバト対策例を紹介する。

 
出雲大社 1978年9月現在669羽生息している。餌場が柵で指定されていて糞量の少なくてすむ小麦が売られている。宝物殿が止まり場でその裏手が鳩舎となっていて、鳩の淘汰は行っていないが個体数のバランスがよく保たれ、糞害も発生していない。地理的条件にも恵まれ、ドバトと人間の自然な交流がみられ、鳩舎法の理想的モデルと思われる(写真5.6〜5.10)。
靖国神社 白鳩の会の管理により純白の伝書鳩約800羽を境内のコンクリート造り3階建ての鳩舎で飼育している。鳩舎の出入管理は音楽テープを学習させて行い、餌はハト用配合粒餌を1日16〜17kgに限定して販売し、制限給餌を行うと同時に、産卵された2個の卵のうちの1個を擬卵に交換して総羽数をコントロールしている。定期的に獣医の診断も受けている。
鶴ケ岡八幡宮 靖国神社由来の白い鳩を約400羽2階建ての鳩舎により管理し、春先の産卵以外の卵は処分し擬卵を使用している(写真5.11〜5.12)。白鳩以外のドバトは年4回手どりにより別のケージに収容している。餌は市販のハト用配合粒餌である。販売している「白鳩豆」の配合率(重量%)の調査結果は次の通りであった。
トウモロコシ 54.1、マイロ 19.1、ウィンターピース 7.6、エンバク 6.8、サフラワー 5.3、コムギ 4.2、ソバ 1.7、アサの実 1.0、ナタネ 0.3(サンプリング量 78.5g)。
善光寺 約1,500羽の生息羽数であるが、冬期は寒さと栄養失調等で減少する。鳩舎を設置してある。餌は寺としては販売せず、餌売りのお婆さんが水でふやかした大豆を売っている。しかし、ドバトは参拝客の餌に依存し、豆売りの餌には依存していないようである。行動範囲は1.2km程である。山門、本堂、仁王門などの軒下の垂木や斗に金網が張られ、本堂内ではネットを張っている(落合照雄 1979 私信)。
浅草寺観音堂 約400羽生息している。高速道路6号線の下にも推定500羽以上が生息していて、これが移動方向から浅草寺に通っていると思われる。境内の老イチョウ、本堂、石燈籠が止まり場となっていて、餌は善光寺と同様にお婆さんが1974年暮れまで水でふやかした大豆を売っていた。ハト用配合粒餌に変えてから糞が落ちやすくなり、屋根や柱の汚れも目立たなくなり衣服にシミが残ったという苦情もなくなった。以前は本堂、二天門、宝蔵門などの屋根や柱は糞で白くなり清掃するために塗装がはげたり変色し、3千万円〜5千万円もかかる塗りかえは3年に1回必要であった。販売している餌の配合率(重量%)の調査結果は次の通りであった。
トウモロコシ 42,8、マイロ 27.3、コムギ 11.6、エンバク 4.9、サフラワー 5.8、青米 2.2、大豆 1.2、ウィンターピース 1.2、ソバ 1.0、アサの実 0.9、ナタネ 0.5、ペレット 0.5(サンプリング量 118.54g)。
鳩舎は設置しておらず、金網で糞害を防止している。
神田明神 小麦など糞量の少ない餌を与えて、仁王門は金網で糞害を防止している。
西本願寺 全部に金網を張って防いでいる(費用がかかる)。
宮崎平和台公園 鳩舎で飼育し、朝・夕2回のみ舎外に出す。餌はハト用配合粒餌を鳩舎内で給餌している。


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