研究・調査

~世界中の鳥類のDNA情報が一つに~
DNAバーコーディング事業における山階鳥研の取り組み

2009年3月1日掲載

山階鳥研では、2008年度から「DNAバーコーディング事業」に取り組んでいます。国際的なプロジェクトでもある、DNAバーコーディングについてご紹介します。

(山階鳥研NEWS 2009年1月1日号より転載)

DNAバーコーディング事業とは

「DNAバーコーディング」は、一般には馴染みのない用語だと思いますが、簡潔に言うと、「DNA配列をもとにして生物の種を簡便に判別する取り組み」といえます。

このDNAバーコーディングは、カナダ・グエルフ大の研究者らによって2003年に提唱され、Consortium for the Barcode of Life (CBOL)が中心となって、2010年までに地球上のあらゆる生物種のDNA配列を解読し、CBOLのデータベースに登録することを目標として、現在世界中の研究機関で進められています。鳥類では全1万種の登録を完了させることを目指して、現在 2,934種、16,991標本について登録が完了しています。

DNAバーコーディング事業による新しい試み

これまでの研究からも、DNA配列や学術標本から種を判別する試みは、広く行われてきました。しかし、この取り組みは以下の点において全く新しい試みであるといえます。

第一に、解読するDNAの箇所が決められていることが挙げられます。これまでの研究では、研究者によって調べるDNA配列の領域や長さがまちまちで、統一された基準から種を判別することができませんでした。基準となる配列は、動物種ではミトコンドリアDNA内のCOI領域のある部分と決められています。

第二に、得られたDNA配列を持つ個体の証拠標本も登録する必要があるということです(図 参照)。これまでのデータベース事業では、標本とその個体が持つDNA配列は別々に登録されるか、どちらか片方の情報しかなくてもよく、両者が揃っていることを重視したデータベースの構築は積極的に行われてきませんでした。

バーコーディングの仕組み

では、この事業によってどのような成果がもたらされるのでしょうか?例えば、今まで分類のエキスパートしか種判別ができなかった分類群の種判別や隠蔽種(注)の発見、体の一部や幼体等、種判別が困難なケースにおいて簡便な種判別システムの確立に役立ちます。

(注)隠蔽種(いんぺいしゅ):外部形態ではほとんど同一で区別できず、同一の種と分類されていたものが、生態やDNA配列の違いによって別種とみなされる種のこと

東アジアの鳥類全種の登録に向けて

DNAバーコード事業の東アジアにおける鳥類種の登録は、国立科学博物館と山階鳥研が中心となって進めています。

山階鳥研では多数の鳥類の学術標本を保有していますが、標本と、DNAを解析するための元となる組織サンプルがセットで揃っている個体は、種によっては未だ入手できていないものも多くあります。そのため、現在既にそれらを保有している種については、DNAの抽出、塩基配列の解読を進めていますが、保有していない種については新たに入手すべく、収集に努めています。この事業は、北米ではすでに全繁殖種についての登録が完了していますが、日本を含めた東アジアに分布する種では、まだまだ登録が遅れているのが現状です。同地域の種の研究の発展ためにも、山階鳥研がその牽引役となって事業に貢献できることが期待されます。

(自然誌研究室 齋藤武馬=さいとう・たけま)


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