歴代所長からのメッセージ


『国立公園』2004年5月号NO.623 「特集・自然公園と風力発電」より
風力発電設置は慎重にすべき

山階鳥類研究所所長 山岸 哲
 地球環境問題として、二酸化炭素量の排出規制に絡み、クリーンなエネルギーとしての風力発電が昨今脚光を浴びている。国が定めた「2010年に300万キロワット」という目標達成が難しくなってきたことを受けて、風況のいい国定・国立公園内で規制を緩和して欲しい気持ちが見え隠れする。こうした状況の中で環境省が今回立ち上げたのが、「国立・国定公園内における風力発電施設設置のあり方に関する検討会」であったことは明白であろう。環境省が「風力発電推進による地球環境の保全」と「国定・国立公園の保全」という相反する2つの命題の板ばさみになっている苦衷が、最初から滲み出ていた検討会だった。
 しかし、クリーンなエネルギーが必要。だから、風力発電が必要。これに反対する者は地球環境を考えない不届き者。という話の持って行き方には、私は何となくしっくりしないものがあった。クリーンなエネルギーには、どのようなものがあるのか、あらゆる方法の検討があって、その中の一つとして風力発電も考えられ、他の可能性が全て検討された上で、どうしても風力発電である、となり、さらに、それならどこへ設置するのがよいのか、国定・国立公園以外の地域も含めて広くその可能性が検討され、どうしても他の場所が適当ではないという結論が出て、それでは国定・国立公園内での規制緩和というのが本来話の順序ではないだろうか。
 このようなことを言うのは、検討会での発言の蒸し返しにもなるが、国定・国立公園は、厚生省・環境庁時代から、環境省が死守してきた、わが国のかけがえのない自然であるからだ。それを風況がよいとか、人が住んでいないからというだけで、壊してしまっていいものだろうか。また、景観の良し悪しは主観的なものであり、「風車は決して醜悪なものではなく、オランダなどでは、その風土にマッチして文化遺産にすらなっている。だから国立公園内に作られた風車も時が立てば、風景にマッチした好ましい景観になるだろう」という意見もある。私はこの意見には納得できない。オランダの風車は、もともと人工的に埋め立てた農耕地に設置されたものであり、それをわが国の原生の自然景観内に設置されるものと一緒にするのは、少々乱暴だと思うからである。


 ところで、国定・国立公園は景観がいいだけではない。そこには、多様な生き物が生息していたり、特異な生態系が保持されている。これらに与える、風車の影響も十分考慮されなくてはならない。鳥類に限ってさえ、風力発電の風車の影響は、バードストライクの問題も含め、まだほとんど科学的にはわかっていないのが現状だ。基礎的な資料の収集が急務であることはいうまでもないが、こうした中では、やはり予防的に対処せざるを得ないだろう。
 どうしても風車を設置するというのであれば(私は反対だが)、それはきわめて局地的問題であるので、検討会の中でも再三申し上げたように、一般論的ガイドラインを固定的に作らない方がいいような気がする。場所々々で、法的に義務付けられた、肌理の細かなアセスをすることが肝要であろう。その際に環境省は、地方自治体にそれらのアセスから認可まで丸投げしてしまうのはよくない。国が大所・高所から、主導権を持って指導していく責務があると思うがどうだろう。




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