歴代所長からのメッセージ


『文藝春秋』2003年7月号より
紀宮様のお誕生日に

山階鳥類研究所所長 山岸 哲
 紀宮清子内親王殿下に、謹んでお誕生日のお祝いを申し上げます。天皇・皇后両陛下におかれましても、紀宮様がつつがなくお誕生日をお迎えになられましたこと、大変おめでとうございます。

 ご臨席の大勢の皆様方の中で、私がこのようにご祝辞を申し上げるのが、ふさわしいのかどうか、はなはだ心もとないのでございますが、紀宮様が一週間のうちで二日も、我孫子の山階鳥類研究所へおでましになられているということは、じつに日中の時間の七分の二は、私どもの研究所でお過ごしになっておられるわけでございまして、研究所でのご研究振りなどを交えながら、山階でのご生活ぶりの一端を、両陛下にお伝えさせていただくと同時に、ご参会の皆様方にもあわせてお知らせし、私のお祝いの言葉に代えさせていただきたく存じます。
 まず、紀宮様のご研究について申し上げます。宮様はいろいろ御研究あそばされておりますが、私は二つのことを強調させていただきます。ひとつは皇居でのカワセミのご研究で、もうひとつはジョン・グールドの鳥類図譜のご研究でございます。
 カワセミのご研究は、このほど山階鳥類研究所研究報告創刊五十周年記念号に論文としてまとめられました。十二年間の長きに及び、きちんと個体識別のリングをつけられて継続観察されたその研究結果は重いものがございます。このご研究によって、カワセミの同じつがいが、うまくいくと、多いときには年間に三回、同一の巣穴で繁殖すること、事故がないと少なくとも二年間は同一のつがいが保たれたこと、皇居では一つの巣から、平均的に六羽強の雛が巣立ち、これはヨーロッパならび国内での数字と大差ないこと、などを実証的に明らかにされました。とくに、皇居でリングをほどこしたカワセミが最も遠いところでは、二十四キロも離れた、清瀬市金山緑地公園に現れておりまして、大都会東京の中の皇居が決して孤立した環境ではなく、周りと見事につながっているのだということを証明されたことに私は大きな意義があったと思っております


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