4.3.2 個体数の変動


 ドバトの個体数増減(個体数変動)は、繁殖集団の出生・死亡・移入・移出の面から長期的調査にもとづいて検討すべきである。
 ここでは一繁殖集団の個体数の観察結果について長野県善光寺の報告を紹介する。

 善光寺のドバトの個体数 10) (落合照雄 1979、私信)は、1959年から1973年にかけて調査が行われている。図4.1は、1959年から1963年の調査結果を示した。この結果によると、ドバトの個体数は1年間を単位として、毎年ほぼ同様の個体数の増減を繰り返しているという 10)。このドバトは3月の最も少ない羽数(500〜700羽)から次第に産卵・フ化により個体数を増し、7月〜11月に最大羽数(1,000〜1,100羽)になり、冬をむかえて餌不足と寒さのため次第に減少して3月に最低値になるという。その後の調査でもほぼ同様の個体数変動をしているという(落合照雄 1979、私信)。

図4.1 長野県善光寺のドバトの個体数の年変動
図4.1
(落合照雄 他 原図1968年)

 次に、東京・渋谷でのドバトの産卵・フ化数と巣立雛数、死亡個体数について比較してみた。すでに3.3.6で述べたように、この調査地では1978年3月から1979年2月の1年間で471個の卵が観察され、月別の産卵数は1月から7月が比較的多く、8月から12月にかけ少ないが毎月観察されている(図4.2)。しかし、卵の消失や放棄が多いためフ化した数は少ない。巣立雛数は8月の9羽が最大で、5月・7〜10月が6羽以上、11月以外毎月観察され、年間で53羽になる(471個の卵のうち、2月末現在抱卵・抱雛のものを除いた434個の卵に対する巣立雛は48羽、調査開始以前に産卵された卵の巣立雛が5羽)。このように巣立雛は夏から秋と春に多かった。

 一方、死亡個体も調査地でみられた。年間を通して記録できた死亡個体は81羽で、月別に比較すると11月が最も多く、10月から2月に集中していた。これらの多くは、口腔・咽頭・食道付近に所謂「ミューゲ病」 5) に良く似た腫よう(黄白色のチーズ状の塊)が発生しているものが多い。ドバトはこの腫ようのため採餌することができず、口腔内に餌が残っている状態で死亡している例もある。死亡個体は胸筋が貧弱で全体的にやせた個体が目立った。死亡個体の一部は何者か(ドブネズミ?)によって胸部等が摂食された例もあり、このなかには先の腫ようが見られた個体もある。

 この調査地のドバトの個体数は週2回11時〜12時の間に観察した。図4.4はドバトの平均観察個体数を月ごとに示したものである。この観察個体数は4月から10月にかけて増加し、10月から2月にかけて減少している。この個体数と調査地の塒数が対応していると考えると、ヒナが数多く巣立った5月・7〜10月は観察個体数の増加した時期に、また死亡個体が数多くみられた10〜2月は観察個体数の減少の時期に一致する傾向を示している。

図4.2 東京・渋谷のドバトの繁殖状況
図4.2

図4.3 東京・渋谷の繁殖地周辺のドバト死亡個体数
図4.3

図4.4 東京・渋谷のドバトの観察個体数の変動
図4.4



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