紀宮清子内親王殿下に、謹んでお誕生日のお祝いを申し上げます。天皇・皇后両陛下におかれましても、紀宮様がつつがなくお誕生日をお迎えになられましたこと、大変おめでとうございます。
ご臨席の大勢の皆様方の中で、私がこのようにご祝辞を申し上げるのが、ふさわしいのかどうか、はなはだ心もとないのでございますが、紀宮様が一週間のうちで二日も、我孫子の山階鳥類研究所へおでましになられているということは、じつに日中の時間の七分の二は、私どもの研究所でお過ごしになっておられるわけでございまして、研究所でのご研究振りなどを交えながら、山階でのご生活ぶりの一端を、両陛下にお伝えさせていただくと同時に、ご参会の皆様方にもあわせてお知らせし、私のお祝いの言葉に代えさせていただきたく存じます。
まず、紀宮様のご研究について申し上げます。宮様はいろいろ御研究あそばされておりますが、私は二つのことを強調させていただきます。ひとつは皇居でのカワセミのご研究で、もうひとつはジョン・グールドの鳥類図譜のご研究でございます。
カワセミのご研究は、このほど山階鳥類研究所研究報告創刊五十周年記念号に論文としてまとめられました。十二年間の長きに及び、きちんと個体識別のリングをつけられて継続観察されたその研究結果は重いものがございます。このご研究によって、カワセミの同じつがいが、うまくいくと、多いときには年間に三回、同一の巣穴で繁殖すること、事故がないと少なくとも二年間は同一のつがいが保たれたこと、皇居では一つの巣から、平均的に六羽強の雛が巣立ち、これはヨーロッパならび国内での数字と大差ないこと、などを実証的に明らかにされました。とくに、皇居でリングをほどこしたカワセミが最も遠いところでは、二十四キロも離れた、清瀬市金山緑地公園に現れておりまして、大都会東京の中の皇居が決して孤立した環境ではなく、周りと見事につながっているのだということを証明されたことに私は大きな意義があったと思っております。また、研究の余談としてお伺いした、カワセミの雛がヘビに取られないように、害虫駆除用の粘着板を巣の周りにとりつけて、ヘビの侵入を防いだというお話には、私も似たような試みをフィールドでやったことがありますのでほほえましくお聞きいたしました。 この論文作成の過程で、失礼ながら図表の書き直しを含め、たくさんの問題点や修正点をご指摘させていただきましたが、それらのすべてに、すばやく反応され、ご自分の納得できる点は修正され、ご自分が納得できない点は「これこれこうだから、所長のおっしゃることは違うのではないでしょうか」ときっぱりと反論されたことが私の印象に強く残っております。
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素直さと同時に、芯のお強い面がうかがわれ、科学者としてもっとも大切な資質をお持ちのようにお見受けいたしました。次に、鳥類図譜のご研究です。著名な鳥類画家である、ジョン・グールドが十九世紀に全部で四十巻出した大判の鳥類図譜がございございます。そこには三千枚に及ぶ石版画に彩色して描いた見事な鳥類画が収められているわけですが、何分とも出版後一世紀半近く経過し、鳥の学名が変わってきてしまいました。学名は分類学の命でございます。変わってしまった学名を、最も新しい学名と対照させて、そのすべてを修正するお仕事にここ十年来従事されていらっしゃいましたが、そのお仕事がこのほどほぼ完成し、玉川大学出版会から、その成果が本年中には世に出る運びとなりました。このような地道な研究は山階鳥類研究所でこそできる仕事であり、大学など他の研究機関には、なじまないご研究でございます。今回のご出版は研究所といたしましても大変ありがたいことと感謝申し上げております。
また、宮様は、研究所では資料室という部署に属されて、お仕事をされていらっしゃいますが、研究所に完全に溶け込まれ、冗談を言い合いながら、所員たちと和やかにお過ごしになっておられます。お昼にはご自分で作ってこられたお弁当を研究員仲間とお開きになり、率先して仲間のお茶を入れられたり、コンパなどの時にはエプロンをされて、かいがいしく、お手伝いをされておられます。
紀宮様には研究所のことを常にご心配いただいており、新米所長の私が困った時にご相談申し上げると、いつもやさしく、「兄の総裁にご相談されてみてはいかがでしょうか」とおっしゃられます。総裁の秋篠宮殿下にその旨ご相談申し上げると、かならず「それは妹から聞いております。こうされたらいかがなものでしょう」と実に的確なお言葉が返ってまいります。このことからもご兄弟仲が大変よろしいことも窺われます。
紀宮様、これからもどうか、ご健康に留意され、ますますご研究にいそしまれますよう、心からお願い申し上げます。また、これを機会に、紀宮様がこれほどまでに大切に思ってくださっております山階鳥類研究所に対し、ここにご参会の皆様方の温かいご支援を賜れますよう、これまた、お願い申し上げます。これをもちまして、甚だ簡単ではございますが、お誕生日のお祝いの言葉とさせていただきます。
それでは、「おめでとうございます」の乾杯の発声をさせていただきます。
「乾杯!」
(平成十五年四月十八日 皇居「連翠」にて)
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