第16回山階芳麿賞贈呈式・記念シンポジウム
「かたちの多様性」


2010年9月23日 けやきプラザ ふれあいホール(千葉県我孫子市)
【主催】 山階鳥類研究所  【共催】 朝日新聞社

【後援】文部科学省・環境省・我孫子市・(財)世界自然保護基金ジャパン・(財)日本自然保護協会・(財)日本野鳥の会・(財)日本鳥類保護連盟・日本鳥学会


【記念シンポジウム】かたちの多様性

●シンポジウム開催の趣旨
山階鳥研所長 林良博
写真|記念シンポジウムの司会を務める林良博所長

これからシンポジウムを始めさせていただきます。

森岡先生が今日受賞の講演をされることがお体の都合でできないということで、先生のお弟子さんとも言うべきお二人の若い研究者、国立科学博物館の真鍋先生と東京大 学総合研究博物館の遠藤先生をお迎えし、森岡先生の受賞を記念したシンポジウムを開催いたします。お二人とも現在、私ども山階鳥類研究所の客員研究員をなさると同時に、博物館で頑張っておられます。まさに森岡先生の受賞を記念したシンポジウムというにふさわしいお二人ではないかと思います。

それではお話しいただきます。どうぞよろしくお願いいたします。



●「飛ぶためのからだ」ができるまで:恐竜の挑戦
山階鳥類研究所客員研究員・国立科学博物館地学研究部研究主幹
真鍋真
写真|真鍋真・客員研究員

ドイツでジュラ紀後期の地層から見つかった始祖鳥は、羽毛の跡が見られるので、19世紀の研究者たちも鳥の化石であることがわかったわけです。小型の肉食恐竜とよく似ています。

2003年に中国の白亜紀前期の地層から、ミクロラプトル・グイという、前足と後足に翼がある動物が見つかりました。進化のシナリオとしては、小型の肉食恐竜が樹上性になった後、前足のはばたき能力が高まってゆき、後足の翼が退化して、いまの鳥の形ができていったのではないかとされています。その後、始祖鳥も後足に小さな翼があったらしいことや、足の親指の向きが恐竜と同じなのではないかということがわかってきました。1996年以降、いわゆる羽毛恐竜がたくさん見つかってきて、鳥と恐竜に明確な線を引くのが難しい状況になってきました。

恐竜から鳥への進化の中に大きな問題点とされることが二つあります。その一つめが、始祖鳥のほうが、その前段階というミクロラプトルなどより古い時代から出てくるため、進化の順番が逆なのではないかという点です。2009年になって、前後の足に翼のあるアンキオルニスというジュラ紀後期恐竜の化石が報告されて、始祖鳥よりも古い時代に前段階のものがいたと言えるのではないかということになってきました。

アンキオルニスと中華竜鳥という羽毛恐竜では、羽毛のメラニンを調べた結果、羽毛にめりはりのある模様があったことが明らかになりました。鳥の脳は爬虫類に比較して相対的に圧倒的に大きく、爬虫類の嗅葉に対し、視覚に関係する視葉が発達しています。もしかすると色とりどりの羽毛やそれを動かすジェスチャーといったコミュニケーションが羽毛恐竜の段階で発達したことで、こんな変化が起こってきたのではないかと考え、関心をもって恐竜の脳を見ています。

行動、生態では、オヴィラプトルという恐竜で見つかった化石の姿勢から、抱卵が恐竜の段階で始まっていたのではないかということもわかってきました。その後、ティラノサウルスの骨で、骨の内壁にカルシウムが沈着していることから、今の鳥との比較で、産卵期の雌なのではないかということがわかってきました。この手法で調べると、先ほどの抱卵している状態のものは、卵を産んだ雌以外の個体ではないかということがわかりました。さらに親の体重と巣内の卵の総容量などの関係を現在の鳥と比較した結果から、抱卵の際の分業のような社会性が、恐竜の段階ですでに誕生していたのではないかということもわかってきました。

新種の恐竜コンカベナトールで注目したいのは、尺骨の表面に風切羽が生えていた痕跡のようなボツボツがあることで、研究論文の著者らは慎重ですが、この恐竜にも何らかの羽毛が生えていたのではないかと考えられるようになりました。コンカベナトールは、鳥とは遠縁と考えられていて、もし彼らに羽毛が生えていたことが正しいとしたら、羽毛の起源はうんと古くなくてはいけないことになります。

もう一つ、長く指摘されてきた問題点が、鳥が胚のときに持っている手の指が、人さし指、中指、薬指と考えられるのに対して、恐竜の手は、親指、人さし指、中指と考えられるので、両者は他人の空似ではないかということです。しかしHOX遺伝子を見てみると、鳥の手の指も恐竜と同様と考えてもいいのではないかという可能性も出てきています。

近年、どんどん中生代の鳥の化石が見つかってきて、現代の鳥の起源は、かつて言われていたように新生代に入ってからではなく、完全に白亜紀後期までさかのぼるのではないかと言われてきています。

恐竜から鳥の初期にあたるぐらいのところはよくわかってきましたが、今の鳥と一つ前の段階、中生代の後期に起こったことは、まだそんなにわかってきていません。今後はこのあたりについてより多くの化石を発見して謎を解いてゆくことが、恐竜から現代の鳥までの流れを解明するために重要だと考えています。


(山階鳥研NEWS 2010年11月1日号より まとめ・平岡孝)


●「飛ぶかたちの完成品」:鳥の秘策
山階鳥類研究所客員研究員・東京大学総合研究博物館教授
遠藤秀紀
写真|遠藤秀紀・客員研究員

鳥は姿かたちが多様で、地球の歴史から見ても、高度な体制を持っているものとしては、かなり多様な生き方をしています。

鳥のアイデンティティは飛ぶことだと思います。飛ぶ動物を見てみると、翼竜では、薬指が1本だけ長くなって大きな翼をつくり、貧弱な後ろ足を持っています。コウモリでは、人さし指、中指、薬指、小指を使って翼を広げますが、翼は前肢だけではなく、後ろ足と、種類によってはしっぽまで使います。翼竜とコウモリも体制のつくり方としては飛ぶだけで精一杯で、多様化する要素が残っていません。人間が作った飛行機も飛ぶための装置だけで固められていて、余計なものをつくる余裕がありません。

大きな仕事をケチケチと片手間にこなしてしまうといいことがありそうだというのが今日のお題です。鳥では、風切羽がほとんど揚力を稼いでいますが、これがケチケチの成功例です。空を飛ぶという、この群だけが成し遂げる強烈な生存の条件を羽毛という、たかだか皮膚の変形物でなしとげてしまっているのです。とはいえ、はばたくために、おおざっぱに言って、体重の15%ぐらいを胸部の筋肉に持っていかれます。

鳥の後ろ足には、空を飛ぶのに役立たない筋肉の塊がついています。これを持っても飛ぶことができてしまうのが鳥のすごいところです。祖先の恐竜の体制のかなりの部分を飛びながらでも別途、多様性を生み出すための材料として使うことのできる連中なのです。

後ろ足の設計に余裕があるために、鳥にはいろいろのタイプの足があり、さまざまな運動をこなすことができます。また、首から前の多様性もすごく、もちろん飛ぶためにバランサーとして長い首が必要という、飛翔とからめた考え方はできますが、餌を探したり、周辺を見渡すのに首の運動が必要だとかいうことを全部やっています。

コウモリは1000種類もいる大きなグループで、その中にはごく少数、ほとんど飛ばない種類がいますが、かれらのなかからは、巨大なエピオルニスや南氷洋を泳ぐペンギンのようなものは生まれてきませんでした。

中生代の恐竜の終わりは隕石の衝突が少なくとも一つの要素としては外せません。大量の恐竜の仲間が死んだ中で、小型で地味で空も飛べた鳥だけがごっそりと生き残りました。カタストロフで生物の進化が飛躍的に進むということがよく言われますが、ケチケチやっているやつは、たいていそれを生き残っていきます。我々哺乳類の祖先もきっとそうだったと思うのですが。

鳥というのは、飛ぶがゆえに万人に愛されます。ところが飛ぶという特徴自体が実はケチケチとつくられていて、それがゆえに鳥は成功しているのだというのを今日のまとめにしたいと思います。


(山階鳥研NEWS 2010年11月1日号より まとめ・平岡孝)


● フロアの皆さんと真鍋、遠藤の「鳥・けもの・恐竜・人類」談義
二人の演者の発表の後、客席からの発言もいただいて「フロアの皆さんと真鍋、遠藤の『鳥・けもの・恐竜・人類』談義」が行われました。

  

林良博・山階鳥研所長(司会): 遠藤先生のお話を、真鍋先生はどう考えられたでしょうか。

真鍋: 鳥はもともとが恐竜だったというところが大きいのかもしれないです。しっかりとした足を持っていて、すごく速く走ったりできるものもいる。そういった意味でほかに比較の対象がないぐらい、空と陸と水中を制覇できる可能性を持ち続けていた、進化の中でもすごく特異な存在だというのを改めて感じます。

遠藤: 羽毛を生み出す素地というか、恐竜の皮膚構造に骨や筋肉をいじらなくても劇的に体表を変えていくような進化的な傾向はあるのでしょうか。

真鍋: 鳥は、足はうろこのままで、膝から上の表皮だけをガラッと変えてしまいました。体温を一定に保てることで、羽毛恐竜という動物の競争力を高めていて、それができたことから、鳥につながる、恐竜も含めて大繁栄が起こっていると思うのです。そういった意味で、膝から上をどういうふうにしてあれだけ変えられたかというのは、僕も実は長年の疑問です。

林: 無脊椎動物のほうが先に空に進出していたわけですが、彼らが鳥のように成功しなかったのは、あの立派な外骨格が邪魔になったと考えていいのでしょうか。

遠藤: 昆虫は、空を飛翔し、陸でも水中でも多様性に富む生活ができるわけですから、十分成功だと思います。

真鍋: 化石の巨大なトンボなどはあまり長く続いていないようで、外骨格ということに制約がかかっているというのがまずあると思います。もう一つは、大きくなると個体の維持のためにたくさんのエネルギーが必要になりますが、昆虫は小さな個体をたくさん増やして、さまざまなところに生息させることで、ちょっとした環境の変化に種族全体が対応できるといったところで勝負をしています。そういったところは全然かなわない感じがします。

遠藤: 翼竜の一番大きいのはどれぐらいになるのでしたか。

真鍋: 最近下方修正されて、だいたい8メートルぐらいと言われています。完全な鳥ですが、南米のチリで見つかった化石が、翼を広げたときに少なくとも5・2メートル以上あります。ちゃんと飛べたのか、かなり厳しいような感じがします。

林: これまで飛べた鳥の中で推定で最も大きかったのは何キロぐらいまであったのでしょうか。

真鍋: 今のところ、一番飛べそうで、一番重いのは先ほどのチリの鳥で推定体重が29キロというのではないかと思います。

遠藤: いずれにしろ、ある程度胸に筋肉がないといけなくて、30キロの体重があったら、5キロぐらいはどうしても胸筋に持っていかれるでしょうね。それから翼面過重といって風切羽全体の面積で体重を割ったときにどのぐらい支えて飛べるかというのがあります。飛ぶ以上はいかに鳥でも大きくしていったら、どこかで無理が出てくるので、無理が利く範囲でしか大型化はできないというのはあります。

林: 私たちはここにいる人間は、皆さん30キロ以上あるでしょうから、おそらくいくら胸筋を鍛えてもだめですね。

フロア: 鳥の祖先はたどっていくと1種類にたどりつくのでしょうか。

真鍋: 化石を見ていると、今のところ一つのルートであろうという可能性のほうが高いです。

フロア: 羽毛を持った動物の化石が今のところヨーロッパと中国で見つかっているということですが、ヨーロッパと中国は全然接点がないように思うのですが。また、中国で羽毛を持っている動物が多数発見されている以上は、やはり中国で鳥が誕生したと考えられているのでしょうか。

真鍋: 中国の羽毛恐竜たちの中から鳥が出てくるという可能性は、今見つかっている多様性だけでヨーロッパとアジアを比較してみると高いです。
別の次元の話で、ちょうど始祖鳥が出てくるジュラ紀後期に、アジアとヨーロッパの間に海ができて二つに分離する、それからいったん世界中が寒冷化します。そういったことがらと、羽毛恐竜が出てくるというのは、何か関係があるのではないかということが言われているのですが、ずばりこういうシナリオだということは、まだ描けていない状態です。

林: 今日のシンポジウムは、生物多様性年という年に多様性をぜひ取り上げようということと、森岡先生が今回、山階芳麿賞を受賞されたということを記念して、「かたちの多様性」ということですばらしいお二人の話を聞きました。森岡先生の受賞をもう一度お祝い申し上げますと同時に、若いお二人に今日のシンポジウムの内容を感謝して終わらせていただきたいと思います。本日はどうもありがとうございました。

(文中敬称略 まとめ・平岡)  山階鳥研NEWS 2010年11月1日号より




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