平成18年度山階芳麿賞授賞式・受賞記念講演と記念シンポジウム
「アホウドリ 復活への展望」


2006年9月23日 有楽町朝日ホール
【主催】 山階鳥類研究所  【共催】 朝日新聞社

【後援】文部科学省・環境省・農林水産省・東京都・我孫子市・小笠原村・(財)世界自然保護基金ジャパン・(財)日本自然保護協会・(財)日本野鳥の会・(財)日本鳥類保護連盟・日本鳥学会・小笠原自然文化研究所・小笠原野生生物研究会・アメリカ合衆国魚類野生生物局
 シンポジウムには(財)河川環境管理財団の河川整備基金の助成を受けています。



【受賞記念講演】 アホウドリ ー その再生への道

 平成18年度山階芳麿賞受賞
 東邦大学教授 長谷川博



 アホウドリの現在の主な繁殖地は鳥島という小さな火山島で、その一角に従来の繁殖地の燕崎があります。120年あまり前まで地球上におそらく二十数万つがいが繁殖していたアホウドリは、羽毛を取るために大量に捕獲されて、日本列島の南のいくつかの無人島にあった繁殖地からどんどん姿を消してしまいました。戦後、1949年に絶滅したと考えられたのですが、1951年に燕崎で10羽あまりが再発見されました。1973年4月末、L・ティッケル先生がイギリス海軍の協力によって鳥島に上陸してアホウドリを調査したとき、僕はまったく偶然に、彼と京都大学動物学教室で出会って刺激を受け、アホウドリの保護の研究をするようになったのです。
 1977年に最初に鳥島に上陸したとき、急傾斜の燕崎コロニーの中央部分には草がなく、卵が転がり出てしまうなどのために繁殖成功率が低いとすぐにわかりました。そこで、ハチジョウススキを移植して繁殖地の地面を安定させるという保護の基本方針を1980年代に提案しました。環境省が保護事業を行ってくれ、繁殖成功率がめざましく向上しました。
 1987年の秋に、燕崎上部の火山灰が台風の大雨で地滑りを起こし、コロニーに被害をもたらしました。そこで提案したのが90年代の保護計画です。2つの課題があり、1つは、従来のコロニーでの砂防、植栽等の工事による繁殖成功率の回復です。第2は、地滑りの心配のない鳥島の北西側の斜面での新コロニーの形成です。その方法はデコイ(実物大の鳥の模型)とアホウドリの音声によって、あたかも繁殖地があるかのように見せかけ、繁殖前の若い鳥をおびき寄せて繁殖させるという、新コロニー形成の人為的促進です。これはアメリカのS・クレス博士がニシツノメドリで用いた方法です。
 第一の課題は1993年に環境省が大規模な予算で実行してくれて、1999年には推定個体数が1000羽を超えました。第2の課題のために1992年から山階鳥類研究所と共同で北西側の斜面で「デコイ計画」を始めました。95〜96年のシーズンに最初のヒナが巣立ち、その後、繁殖つがい数がなかなか増えなかったのですが、2004〜5年の繁殖期に4つがいから4羽のヒナが巣立し、コロニーは確立しました。翌シーズンには13羽のヒナが出ています。
 これまでの増加傾向や、出生率などの繁殖集団のデータを分析しますと、鳥島で噴火が起こらず、海洋環境が変わらなければ、アホウドリは増え続けることがほぼ確実です。また、第2の繁殖地がある尖閣諸島でも、数が増加し繁殖分布域が拡大しています。
 未解決の問題として、鳥島が大噴火すれば繁殖集団の半分近くが失われる可能性があることと、尖閣諸島は領土問題を抱えていることがあります。そこで2000年に入ってから国際的なチームで協力して次の計画を考えました。それは、減少以前の繁殖地であり、火山でもなく領土問題もない安全な小笠原諸島の聟島列島に第3の繁殖地をつくるという計画です。孵化後約1カ月のヒナを人間の手でその場所に移動し、飼って巣立たせる。そうすれば生まれたところだと思って同じ場所に帰ってくるはずです。
 この場所で5年間、毎年10羽のヒナを持ち込んで巣立たせたときの数の推移を予測してみると、聟島列島に2020〜25年ぐらいに繁殖集団ができるに違いないと思います。そのとき間違いなくアホウドリはこの地球上に復活するというふうに、僕は予想しています。
 この研究、保護活動を続けるためにたくさんの方にお世話になり、ご協力いただきました。ありがとうございました。




【記念シンポジウム】アホウドリ 復活への展望

●シンポジウム開催の趣旨
 山階鳥研所長 山岸 哲

 山階鳥類研究所は長谷川さんと協力して、アホウドリの保全に取り組んできました。お見せしている映像は、私どもの研究所の創設者、故山階芳麿が1930年2月に鳥島を訪れたときの映像です。このときすでにもう約2000羽ほどになっており、山階先生は強く保護の必要を訴えられたわけですが、その甲斐もなく一時絶滅宣言されるほど減少してしまったわけです。長谷川さんの講演にもありましたように、いま再び、アホウドリその未来に光が見えかけております。そのときにあたって、私たちは、これまで一体何をしてきたのか、そしてこれから何をしていったらいいのかをご一緒に考えてみようとするのが、このシンポジウムの趣旨でございます。




●繁殖地移転作戦の成果とプラスチックによる海洋汚染
 ー新繁殖地で16つがい繁殖 ー
 山階鳥類研究所研究員 佐藤文男


   山階鳥類研究所は1991年から、長谷川先生と共同で鳥島においてアホウドリを誘致し繁殖させる研究に着手しました。鳥島初寝崎の安定した斜面で、デコイ、擬卵、音声を使って、本物の繁殖地に見えるように、毎年9月、10月にデコイほかの設置、5月に撤収を行い、11月と2月には現地で観察、さらに人工衛星を用いたリアルタイム監視カメラによって現地調査を補いました。
 1995〜96年の繁殖期に初めて1番いが繁殖してから9年間、つがい数が全く増えなかったのですが、2004〜5年の繁殖期には4つがいから4羽が巣立ち、2005〜6年の繁殖期には 16つがいが産卵、13羽のヒナが孵化しました。これによって鳥島における新繁殖地をつくる研究は成功したと判断しました。
 現在アホウドリが抱える問題点の中に、アホウドリによるプラスチック、釣り針の混食、それから漁業による混獲があります。
 ヒナは親鳥が魚卵などの餌と一緒に飲み込んできたプラスチックを一緒に食べてしまいます。私たちの調査で、鳥島のクロアシアホウドリのヒナの吐き戻した中から、日本製のカップ麺の容器の破片なども出ています。
 プラスチックを親鳥がどこから運んで来るか調べるために、2〜3月に親鳥の採餌海域を人工衛星で追跡したところ、伊豆諸島周辺から房総半島・鹿島灘沖の本州沿岸に集中していることがわかりました。ここは、沿岸漁業の漁場であるとともに、本州の河川から大量のゴミが太平洋へと吐き出されている海域です。身近なところにプラスチック混食の原因の一つがあったのではないかと考えています。
 プラスチック製品ばかりでなく、レジン・ペレットと呼ばれる粒状の中間材料が海に大量に流出していることが問題になっています。鳥島海域で調査したところ、北太平洋の他の海域よりも格段に高い数値が記録されました。海洋生態系への影響が心配されます。
 この新繁殖地をつくる研究には、多くの方々からさまざまなかたちのご支援をいただきました。心より感謝申し上げます。



●北部太平洋漁場における海鳥混獲問題とアホウドリ回復計画
 米国魚類野生生物局 絶滅危惧種担当主任
 グレッグ・R・ベイロー


 

 アラスカでの漁業における海鳥の混獲問題については国際的なチームで取り組んでいます。アメリカの絶滅危惧種保護法によって、たとえばタラ・ギンダラのはえ縄漁ではアホウドリの混獲が2年間に4羽を超えるとすぐにその漁場が閉鎖されるという規制があるために、業界も混獲防止に真剣に取り組んでいます。
 はえ縄漁での混獲防止のためにいろいろ試したところ、ストリーマー・ラインという仕掛けに効果があることがわかりました。特別の助成金を受けてアラスカのすべての商業漁船に無料配布したところ、漁業活動の増加にもかかわらず海鳥の混獲は劇的に減少しました。さらに、釣り糸自体に錘を編み込んで速く沈める方法と組み合わせると100%近い防止効果があることがわかりました。
 また、トロール(底引き網)漁では、引き網やソナーケーブルというロープ状の部分に鳥が衝突死する危険性があり、3つほどの方法を考案しましたが、まだ洗練の余地があります。また、ご紹介したようなさまざまな普及・啓蒙活動も試みています。
 次に魚類野生生物局の「アホウドリ回復計画」についてですが、これは保全のための有用情報の収集と、回復に向けての道筋を示すガイドラインです。
 この計画では、保全の効果の指標として、アホウドリを絶滅危惧種から1ランク下の危急種に下げるための条件として、総繁殖個体数が750つがい以上、増加率が7年平均して6%を超えること、3カ所の繁殖コロニーが存在し、そのうちの2つは火山がない場所であることを求めています。現在、策定の最終段階にあり、パブリックコメントでの批判に応えて、個体群存続可能性解析という分析によって目標値の妥当性を検討しているところです。



●人工衛星追跡で判ったアホウドリの行動圏と海洋環境
 オレゴン州立大学ハットフィールド海洋科学センター助教授
 ロブ・M・サーヤン


 アホウドリの人工衛星追跡と、リモートセンシングによる海洋学的なデータを組み合わせた分析についてお話しします。繁殖地である鳥島と、越冬地であるアリューシャン列島付近の海域でアホウドリを捕獲し、発信機を装着しました。換羽によって脱落するまで、2〜6カ月ぐらい追跡できます。
 鳥島で発信機を装着した8羽は、ヒナがいる2〜5月ころには本州沿岸で採餌を行い、その後、カムチャッカ近海を通ってアリューシャン列島のほうに主に2つの経路を通って移動しました。本州や北海道沿岸の大陸棚の縁のあたり、あるいはアリューシャン列島の島の間、それからベーリング海のやはり大陸棚の縁のあたりに長く滞在しました。
 クロロフィルの生産量と重ね合わせると、長く滞在した場所は生産量が高いことがわかります。アホウドリにとって非常に重要な関東南岸は季節的に非常に豊富な生産が見られる場所です。
 5月の平均海面の温度との関係を見ますと、非常に生産量が高い黒潮の流域よりも北の涼しいところ使う特性があることがわかりました。
 風との関係では、ハワイやガラパゴスなど、北太平洋の別種のアホウドリ類の生息地に比較してアホウドリのいる場所は非常に風が強い地域です。また、季節風をうまく追い風として利用してアリューシャン海域付近に移動していくことがわかります。若い鳥のほうが平均移動距離が倍近く長く、ベーリング海付近の大陸棚のほうまで移動するということがわかりました。
 アホウドリの行動特性が理解できるようになることは保全上非常に重要です。これらの結果によって特に各種の漁業との調和の方法を見いだしていくことが大事だと考えています。




●小笠原諸島への移住作戦
 山階鳥類研究所研究員 出口智広


 「アホウドリ回復計画」で第3の繁殖地に小笠原が選ばれたわけですが、鳥島から距離がありますので、デコイでの誘引のみによる移住は非常な時間がかかるおそれがあります。鳥島から運んだヒナを巣立ちまで飼育すれば、巣立った場所を覚えていてそこに戻って繁殖する習性がありますから、早く繁殖地をつくる最も有効な方法と言えます。
 昨年3月に長谷川先生と私は現地調査をして、候補地を聟島の北西部に絞りました。今年の2〜7月にかけて、ハワイでコアホウドリによるヒナの飼育実験を行いました。来年3月からは聟島列島でクロアシアホウドリのヒナを飼育する予定です。これら近縁種の飼育から明らかになった問題点をクリアできる確証が得られたときに、アホウドリのヒナ10羽前後を候補地に運び、巣立ちまで飼育する計画を進めるつもりです。これは数年間継続することを予定しています。
 コアホウドリの飼育実験では、ミッドウェーからハワイのカウアイ島に、4〜6週齢のヒナを飛行機で運び野外で飼育しました。感染症防止のために給餌は手を殺菌して行いました。飼育個体の成長パターンは1羽を除いてほぼ野生個体と同様でしたが、巣立ったのは10羽中4羽でした。5羽の死亡個体の直接的な死因はバクテリア感染でした。1羽は私たちの不備によって翼の靱帯が損傷してしまいました。
 クロアシアホウドリの飼育では衛生管理の徹底と、消化の負担がかからないような改善の必要があります。また初期の死亡の回避のために、より高齢のヒナを移動させることも検討の必要があります。
 小笠原は固有の自然環境を多く残す貴重な場所で、漁業や観光にとっても重要な場所です。地元の住民の皆さんや関係者の方々と十分な意思疎通を図りながら進めていくことが重要だと考えています。



●総合討論
パネラーの発表の後、客席からの発言もいただいて総合討論が行われました。

山岸 アホウドリについて私たちは何をこれまでやってきて、いまどこへ向かおうとしているのかということが、ここまでのお話でおわかりになったかと思います。

会場 アホウドリの回復に関する資金は、国民や政府から必要十分にあるのでしょうか。

長谷川 潤沢とは言えませんが、僕自身の調査研究は、東邦大学、「アホウドリ基金」という個人的な方からの寄付、それと僕自身のお金でやっています。

ベイロー アメリカ側の予算ですが、アホウドリをレッドリストから外すことができれば産業活動がよりスムーズに行えるということで、比較的潤沢な資金、具体的には年間2億円程度の額を得ることができました。

会場 衛星追跡でアホウドリが北へ移動することがわかったのに、鳥島より南側の小笠原諸島に誘致するのは不適当ではないのでしょうか。

長谷川 先ほどの衛星追跡は、繁殖前の若い鳥の追跡ではないことがひとつと、かつて繁殖していた場所であることが重要なことがあります。現在小笠原では不定期にアホウドリが観察されていますが、鳥島の北側の島ではそういうことはないのです。

会場 テレビで紹介された、デコイに恋したアホウドリはその後どうなったのでしょうか。それから、アホウドリという名前を、この機会に変えていただけないでしょうか。

佐藤 この5月にデコイをすべて撤去したときに、公にはあまり検討しませんでしたが、1個忘れていましたと言ってそのデコイだけ残せばいいのかと思ったりしました。デコイがなくても絶対うまくやってくれると私は信じています。

長谷川 名前の変更は僕が決めることではないので、提案しています。すぐに変えるのは無理だと思いますけれども、アホウドリが5000羽を超えるころには変わるのではないかと思います。

山岸 最後に環境省野生生物課長の星野さん、シンポジウムを聞かれていかがでしょうか。

星野一昭 今日のシンポジウムは、アホウドリのこれまでと、これから進む方向について、科学的な観点も踏まえてわかりやすくお示しいただいて、時宜を得た素晴らしい企画だと思っております。環境省としても、今後も精いっぱい努力していきたいと思っております。

山岸 私の感想ですが、いまやアホウドリの保全は国際的な協力によって考えていかなければならない時が来ているということ、それから、カップ麺の容器の話がありましたが、離れ小島で生活しているアホウドリに、私たちの出すゴミが川と海を経由して問題を起こしているわけです。意外と私たちと身近なところで繋がっているので、一人ひとりがやればできることがきっとあるんだと思います。そういうことを今日、お持ち帰りいただければ非常にありがたいと思います。

(文中敬称略 まとめ・平岡)  山階鳥研NEWS 2006年11月1日号より




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