鳥類標識調査

仕事の実際と近年の成果

2010年3月25日掲載

オナガガモ、ロッキー山脈の遙か東へ!

日本を飛び立ったオナガガモのオス アメリカ・ミシシッピ州で回収される

新潟県阿賀野市で足環を装着されたオナガガモがアメリカのミシシッピ州で回収されました。これは、日本で足環を装着して放鳥した鳥の中で東方向へのもっとも遠い記録になります。

『山階鳥研ニュース』 2008年11月号より)

回収されたオナガガモは、2008年1月3日アメリカ・ミシシッピ州のルールヴィルでハンターによって銃猟されたもので、アメリカ農務省自然資源保全局を介し、日本の鳥類標識調査のセンターである山階鳥研の標識研究室に足環照合の問い合わせがありました。

照合の結果、この個体は2000年2月16日に新潟県阿賀野市水原にある瓢湖で、協力調査員の本間隆平さんによってオスの幼鳥として捕獲・放鳥された個体であることがわかりました。

 

左:足環を回収したハンターのF.スコット氏
右:回収されたオナガガモの足環。左上に「KANKYOCHO TOKYO JAPAN」と明記されている。
(両方とも、アメリカ合衆国農務省J.M.リー氏提供)

日本で放鳥したオナガガモが、アメリカで回収される例は今までにもありましたが、いずれもアラスカ州・カリフォルニア州・ユタ州などロッキー山脈より以西で見つかったものでした。今回のように、ロッキー山脈より東側からの例は初めてであり、もちろん日本から東へ渡ったもっとも遠い記録となります。逆にアメリカ大陸で足環を装着されて日本で回収されたオナガガモを含めても、もっとも遠い部類に属します。

オナガガモは、夏はユーラシアと北アメリカの北極圏に近い寒帯・亜寒帯で繁殖を行い、冬になると日本や東南アジア、南アジア、南ヨーロッパやアフリカ、北米南部などの温帯や熱帯で越冬します。通常、繁殖地から越冬地へ渡る移動範囲(=フライウェイ:注)はある程度決まっており、その範囲内で渡りを行います。

しかし、フライウェイの中でも繁殖地が隣のフライウェイと重なるケースがあり、異なるフライウェイのオスとメスがつがいになり、繁殖後、越冬地へ渡るときに、オスがメスにつられていってしまうことがあるそうです。標識研究室では、今回の例もつがいとなったメスにつられてアメリカへ渡ったのではないかと推測しています。

今回判ったオナガガモの移動
◆印は放鳥地、●印は回収地を表す。桃色が繁殖地、黄色が越冬地、オレンジ色が周年生息している地域を示す。渡りは北極圏周辺の繁殖地を経由したと考えられる。
(分布図はMadge and Burn, 1988. WILDFOWL -An identification guide to the ducks ,geese, and swans of the world. を参照し作成)

(注)フライウェイ:鳥が繁殖地と越冬地を渡る際の移動範囲のこと。研究者によってまちまちだが、世界中で大きく分けて8つの区域があるといわれている。日本は「東アジア・オーストラリア地域フライウェイ」に属しており、日本で見られるカモ類の多くは夏の間シベリアでヒナを育て、寒い冬を、日本や東南アジアなどで過ごす。

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